地上へ

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 あれはそう、幼少の頃、学園生活を謳歌していた時の思い出だ。学校で飼育されていた動物達が何者かの手により虐殺された忌まわしい記憶だ。事件として取り上げられたその出来事、同学年のクラスメイトから一方的に犯人扱いされ糾弾された最悪の思い出である。  特に理由もなく、証拠もないにもかかわらず修市が疑われたのは、事件が起こる前日、修市が動物達がいた飼育小屋の近くを歩いていた事。そして、かつて修市が触れた動物が全身から血を吹き出し、そのまま絶命した事を知る人物が、今回の件で修市が犯人ではないかという風評を流した事が原因である。  周りの同級生も、その人物が流した情報を鵜呑みにし、一方的に話を聞こうともせず、修市が犯人を決めつけたのが、あの夢の結末である。その後、犯人は警察の手により捕まった。自分よりも弱い存在を傷付ける事で、日頃のストレスを晴らしたかったという理由で動物達を手にかけた通り魔による犯行だったのだ。  しかし、一度流れた噂は消えることは無かった。その後も修市を取り巻く環境は変わらず、犯人が捕まったにも拘らず、飼育小屋の動物を手にかけた犯人の仲間という噂に尾ひれがつき、最終的に孤立してしまった。  そんな最悪の結末で終わった記憶に内心溜息を漏らし、修市はテーブルの上に置かれたノートへと視線を向けた。 「……これも、書く訳にはいかないよなぁ」  書き残すには嫌な思い出としての印象が強すぎる。以前の夢の時と同じように、これは記載すべきでないと判断した修市は、タオルで汗を拭うと、気怠い気分の中、気分を紛らわせるために部屋を出た。  地霊殿の庭、寝起きの気怠い気持ちを落ち着かせようと立ち寄ったその場所に、さとりの姿があった。 「おや、日野さんお早う御座います。こんな朝早くにどうされたのですか?」  修市に気付いたさとりが声をかける。最悪のタイミングで一番会いたくない人物に会ってしまったと、修市は思った。彼女の事を嫌っての事ではない。見ず知らずの外来人である自分を保護し、一人の客人として扱ってくれる恩人に、好感を抱く事はあっても嫌悪の対象となるなど、有り得ない話である。
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