接触

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 視界に映る景色を目に焼き付け、自分が今何処にいて何をしているのか、そんな事を客観的に見つめている。そうする事で心を落ち着かせ、冷静であろうとしなければ、不安と恐怖で思わず叫び声をあげてしまうかもしれない。  そんな不安一色の最中、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。一瞬、心臓が跳ね上がるのを感じながら、視線を音源へと向けると、ドアノブがゆっくりと回り、扉が開かれる。その扉の先には、異国の少女が姿を現した。  やや癖のある薄みがかった紫色の髪に深紅の瞳、フリルのついた、ゆったりとした水色の服にピンクのセミロングスカート。そして、癖のある髪をおさえた赤いヘアバンドには無数のコードが繋がっており、そのコードが胸元のアクセサリーらしき球体に繋がっている。よく見ると、その赤い球体は目をモチーフにしているのだろうか、まるで生物の様に精巧に作られたそれは、まるで本当に生きているように修市を見つめている。 「おや、どうやら目が覚めたみたいですね」  その声にハッとなり、視線を胸元の赤い球体から少女へと移る。少し眠たげそうな瞳は何処か儚げで、しかし、全てを見通すようなその眼差しに、修市は言葉を詰まらせる。そんな修市の気持ちに気付いたのか、少女はニコリと笑みを浮かべ、諭すような声色で、物静かに声を発した。 「お早う御座いますと言うには日も落ちていますが、お身体の調子はいかがですか?」 「あ……えっと。はい、身体の方は何も……」 「そうですか。それは良かった。散歩がてらに歩いていた時、貴方が倒れていたのを見て驚きましたが、特に問題がないようで何よりです」  やや苦笑交じりの表情。本当は身体以外の所で問題があったのだが、その表情に、修市は先程まで感じていた不安が抜けていくのを感じた。まるで目の前の少女に会う事が出来たその事に安堵したかのように。 「そういえば、自己紹介がまだでした。私は古明地 さとりと申します。此処は私の住まう屋敷で、貴方はこの屋敷の庭で倒れていました」  自己紹介の次いでに、どのような経緯で修市が此処にいるのか簡素に述べる。 「今はこの屋敷には私しかいませんが、その内に使いの者が戻ってきますので、それまでの間に、順を追って貴方とお話ししたいのですがよろしいでしょうか?」  その方がお互いの為になると思うと、さとりと名乗った少女は、修市のベットに近付くと、備え付けの椅子に腰かけ、じっと、修市の表情を伺う。
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