地上へ

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 本当に申し訳なさそうな表情で謝罪するさとりに、修市はそう言って苦笑を浮かべる。クロは自分の事をさとりのペットみたいな発言をしていたが、さとりにとって彼女達は自分にとっての家族の様なものなのだろう。  家族の一員だからこそ、ある一定の距離で接し、時には愛情を注ぐように、そして何か失敗をしたのならその子達の事を心の底から心配する様な性格なのだろうと、修市はさとりの態度からそう判断した。  本人にそう言っても、自分は放任主義ですと言いかねないが、それでも修市からすると、彼女の傍にいる動物達は幸せ者なのだろうと、そう思っていた。先の悪夢を見続けた修市からすると、それは本当の意味で幸せなのだろうと思うくらいに。  暫く、地霊殿の庭を歩き続けた修市とさとりの両名。話す内容と言えば他愛のない世間話。記憶が戻ったがどうか、何か思い出した事は無いかといった内容ではなく、些細な世間話をキャッチボール感覚で受け答えするといったものだ。  さとりとの会話は、とても有意義なものに感じた。会話の内容を深く追求するのではなく、広く浅く、時に話題を変えるなど、修市に対して気遣う所が多々見受けられる。時折見せる仕草や表情の移り変わり、そのどれもが何故か新鮮に映り、会話が次第に弾んでくるのを修市は感じた。まるであの悪夢が嘘の様に、本当に唯の夢だと思うくらいに、さとりとの会話は修市の気持ちを紛らわせるには十分なものだった。  しかし、物事に始まりがある様に、そんな安らぎの時間にも終わりが来る。会話の最中に、さとりの視線が再び入口へと向けられたのだ。さとりに続いて修市の視線が地霊殿の入口へと向けられる。そこにいたのは、さとりがお空にも話していた、地上の博麗神社に向かっていた送那 クロエこと、クロの姿。  犬の姿ではあったが、さとりを視界に捉えた瞬間、パッと笑顔になり、駆け足で近付く彼女に、修市は一歩後ろに下がり、二人と距離を取った。別段、クロの事が苦手なのではない。務めを果たし、地霊殿に戻ってきたクロとさとりの再会に水を差さない為、という訳でもない。  さとりに近付いてきたクロの姿が犬であった事。そして、先の先まで忘れる事が出来ていた筈の悪夢が再び呼び起された事。正確には呼び起されたというよりも条件反射に近かったのだろう。動物の姿であるクロに、修市は夢の中の動物の亡骸を重ねてしまい、その結果、クロから一歩遠ざかったのだ。
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