地上へ

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 修市と同じ考えなのか、さとりもクロの言葉を聞いた後、クロに対し笑みを浮かべながら良く出来ましたと褒め、フワフワの毛を優しく撫でると、地上に上がる為の準備がある為、少し席を外しますとだけ言い、そのまま修市とクロをその場に残し、地霊殿の中へと戻って行った。  さとりの姿が消えるまでその背中を見送る二人。少し気まずい雰囲気が流れる中、ふいにクロの顔が修市の方へと向けられた。 「おいお前」 「何ですかクロさん」 「僕がいない間、さとり様に失礼な事はしていないだろうな?」 「自身は無いですが、僕の中ではしていないと思います」  失礼の無い様にしていたとは思うが、流石にそこまでは分からない。しかし、その事を言ってもクロは疑いの眼差しで睨み付けてくるだろう。ならば、自分はしていないと思う、後はさとりの捉え方次第だと切り返せば何も言えない筈だ。  案の定、疑いの眼差しを向けてはいるが、それでも深くは追求する様子は見受けられない。後はさとりに確認すれば分かるだろうから、この疑いの眼差しも今だけ我慢すれば問題ないはずだ。 「分かった、それじゃあ日野を信じるぞ」 「それは良かった」 「それに、あまり問い詰めるのも失礼だしな。それに、何処かお前、体調が悪そうだからな。無理に問い質して余計に体調を崩されたらさとり様に迷惑が掛かってしまう」  その言葉に、修市の言葉が詰まる。少し前に、さとりとの世間話で体調が大分戻ったと思っていたが、思いのほかそうではなかったらしい。  更に言えば、顔合わせ以外、あまり親睦を深める機会がなかったクロでさえ、修市の隊長が悪かった事を見抜かれていたとなると、今朝方の自分の表情は相当優れていなかったのだと、クロの言葉で漸く理解した。それでは、今朝方から修市の顔色を見抜いていたさとりはどのような心境で会話に付き合ってくれていたのだろう。 「体調が悪そうですか……最近少し眠りが浅いからかもしれません」 「つまり寝不足という事か?」 「はい、もしかしたらそうかもしれません」 「……ふぅん」  はぐらかそうとするも、クロは疑いの眼差しを向けてくる。そして一歩、修市に近付き、その顔色を窺おうとした。その行為に、修市も思わず一歩後退する。再び無意識にやってしまった自身の行動に後悔するも既に遅い。その行為に、クロは思う所があったのか、少し考えた後に、問い掛けてきた。
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