地上へ

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「お前……もしかして動物が苦手か?」  核心をついた一言に、修市は言葉を詰まらせる。動物が嫌いという訳ではない。しかし、記憶の中の動物の姿があまりにも残酷で、そしてその原因となったのが自分であるという事に、クロが問い掛けた苦手という言葉の意味合いは、あながち間違いではないだろう。  事実、修市がこの地霊殿で保護されてからというもの、一度として動物に触れた事がない。さとりを解してでしか接点がなかったとしても、少しの間、遣り取りをしていれば、修市が動物に触れていない事も、そして、さとりや人間の姿をしていた時のクロにも触れていない事も分かるものだ。  恐らくさとりも、修市が意識を取り戻して以降、正確には、あの悪夢を見始めてからというもの、誰かと触れ合う事に対し消極的になっている事に気付いているだろう。気付いていて尚、積極的に接するのではなく、少し間をおいて接する態度を取っていたのだとしたら、益々さとりには申し訳ない事をしたと、修市は思った。  しかし、クロは違う。思った事をそのまま口にする。最も、思った事をそのまま口走るのではなく、ある程度、核心めいた事がない限り、それを本人に問い掛ける事は無いのかもしれない。  唯、今の修市とクロの立場上、修市を警戒している状態のクロからすれば、主人であるさとりの身に危険が及ばない様に配慮しての事なのだと、修市は解釈する。そしてそれが困った事に、修市にとって触れて欲しくない、核心的な事でもあり、その問いに対して、修市は上手く返す事が出来なかった。 「で、どうなんだ? 動物が苦手なのか? それとも、犬猫に嫌な思い出でもあったのか?」  クロからすれば、苦手の原因が、昔動物と接しようとした時に何かしら嫌な思い出、それこそ噛まれたり引っ掻かれた程度の考えなのだろうが、修市からすれば、その問い掛けは尋問に近かった。何か答えなくてはいけないが、何と言えばいいのだろう?  クロの指摘通り、動物が苦手と曖昧に答えるか、それとも、真実を答えるか。あまり待たせると、益々疑いの眼差しは強くなり、何を言われるか分からない。そんな状態の中、修市は、前者の答えを選んだ。 「すいません。昔動物に噛まれた思い出……曖昧で正確ではないですが、嫌な思い出があったのだと思います」
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