接触

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 時折、視界の端に映る胸元のアクセサリーも、意志を持っているのか、修市に視線を向けている様に見えたが、恐らくは気のせいだろう。それよりも、自身に置かれた状況も分からない修市にとって、彼女の提案は願ってもない案件だった。 「えっと、此方こそ宜しくお願いします。僕は日野 修市と申します。僕が何故、古明地さんの屋敷の庭で倒れていたのかは分かりませんが、出来ればその時の状況を詳しくお聞きしたいのですが、宜しいですか?」 「……そうですね。そうなんですね」  修市の言葉に、さとりの表情から困惑の色が浮かぶ。まるで、思いがけない事柄に直面したような……何故、自分がそのような事を思った事すら分からないが、さとりの表情はまさにそんな表情だったと、修市は思った。呟く様に、あぁでもない、こうでもないと、ブツブツ呟きながら、時折修市の表情を診ては首を傾げている。  その都度、胸元のアクセサリーに触れながら再び首を傾げるも、やがてふぅっと息を漏らした後、改めて修市と向かい合った。 「単刀直入にお聞きします。この質問が、貴方にとって理解できないものかもしれませんが、それでも、私がこれから話す事柄は全て事実です。その上で私の言葉に耳を傾けて頂けると幸いです」  そう言って事の次第を語ったさとりの言葉は、修市には理解しがたいものだった。此処は幻想郷と呼ばれる、修市が生活していた世界とは異なる世界ということ。そしてこれは推測ではあるが、自分が幻想郷の創始者であり、妖怪の賢者と呼ばれる隙間妖怪 八雲 紫により、外の世界から神隠しにあい、この世界に連れてこられたのだろうとのこと。  そして、神隠しにあった人間達の総称を、外来人と呼ばれていること。神隠しにあった人間は大きく二種類に分かれていること。幻想郷に住まう妖怪の贄となる為に連れてこられたものか、別の目的があって連れてこられたのか、仮に前者の場合、何故修市がこの屋敷、地霊殿で倒れていたのか、それが分からないとのこと。  地霊殿は幻想郷の地下に位置する地底にあり、旧都と呼ばれる魑魅魍魎が住まう土地の中心に建設された屋敷だという。そして、地上と地底は互いに不干渉という約束が成り立っている為、八雲 紫が態々地底に外来人を送る必要がないとのことだった。
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