博麗の巫女

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 クロが此処で待機する理由は、地霊殿の住人達から何か連絡があった場合の報告役としてらしい。確かに、クロの能力なら、何か急用があった場合、連絡役と共に博麗神社まで能力で移動し、そのままさとりと共に地霊殿に戻る手筈になっているようだ。  さとりも地霊殿の主としての務めがある。その務めを中断してまで博麗神社まで一緒について来てくれるのだ。いくら客人として持て成すと言っていたとはいえ、此処まで待遇の良い扱いを受けるのは申し訳ないという気持ちになるも、それを口にしてはまたさとりに気を遣わせてしまうだろう。今は受けた恩を忘れず、当初の目的であった博麗神社まで足を運ぶ事を最優先に考えよう。  そう思いながら、さとりとクロの遣り取りを聞きながら、修市は僅かな光が漏れる洞窟の入り口、つまり地上へ繋がる出口へと視線を向けた。この先を進めば、博麗神社に到着する。  記憶を失った自分にとって、博麗の巫女との出会いは、ある意味で分岐点となるだろう。もしかしたら、記憶を取り戻す足掛かりにもなるかもしれない。そして、元いた外の世界に戻る事も出来るかもしれない。その前に一言、一言だけ二人に、特に、此処で別れるかもしれないクロだけには伝えておかなければいけない言葉があった。 「さとりさん、それにクロさん、先にこれだけは言わせて下さい」  これだけは絶対に、伝えておかなければいけない事がある。例えさとりやクロに何と言われようと、これだけは言っておかないと、人として、そして何より、助けてもらった恩人に対して、それこそ失礼に値するだろう。 「僕を此処まで連れてきて頂き、本当にありがとうございました。お二人の協力がなければ、きっと僕は、他の妖怪達の贄になっていました」  本来ならば礼を返すのが道理だが、それが出来ない以上、今の自分に出来る事、そして口にできる事はこれくらいしか出来ない。誠心誠意、今の自分の気持ちだけを二人に伝えよう。  そう思っての言葉に、クロはさとりに目をやり、目深帽子を深く被り直す。その時、僅かに口元に笑みが浮かんだが、その表情は修市には見えなかった。 「バカだなぁお前は。さとり様は兎も角、僕に礼を言う必要なんてないんだよ。僕は、始めの内は反対したんだ。ほっとけばいいって言ったんだ。でもな、さとり様がお前を保護するって言ったから、僕はそれに従った」
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