博麗の巫女

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 だからと、言葉を繋げ、クロはふいと修市から顔を逸らし、そのまま背中を向ける。 「だから、お前がお礼を言うべきはさとり様だけだ。僕に言う必要なんてない」  そこまで言い切り、地上への入り口とは反対側へと移動する。そして、壁に背を預ける形で座り込むと、そのままそこで待機すると言い、二人に地上へ上がる様にと促した。  そんなクロの態度に、さとりは第三の目で思考を読み取る。感謝の言葉を言われた時、クロは確かに嬉しいと感じた。しかしそれは、自分にお礼を言われた事ではなく、修市がさとりにお礼の言葉を送った事だった。  修市の言葉を聞きながら、クロは修市の表情をじっと見つめていた。修市の言葉に嘘偽りはないか、それを確認するために。そして、クロは修市の言葉に嘘偽りが無い事を解し、嬉しさのあまり、思わず笑みがこぼれそうになった為、思わず目深帽子を深く被り直したのだ。  本当は尻尾が千切れんばかりに振りたいほど嬉しいというのに、その姿を見られたくないから壁に背を預け、尻尾を抑え込んだ。そうでもしない限り、今頃クロの尻尾は凄い勢いでぶんぶんと振るわれていただろう。  今、目深帽子を取ったら、笑みを押し殺した何ともいえない表情が見れるのだろうが、もしそんな事をしたら、きっとクロは赤面しながら混乱するに違いない。地上に早く上がる様に促しているのも、我慢するのが限界に近いからだ。言いたい事があったら素直に言うクロだが、些細な所で感情を押し殺す事がある。  修市を保護すると言った時もそうだった、人間を保護するというさとりの言葉に、クロは不満を持っていた。しかしそれは、さとりに対しての不満ではなく、修市がさとりが覚妖怪と知り、助けた事など歯牙にもかけず拒絶したら、さとりが傷つくのではないかという感情の表れだったのだ。  とはいえ、さとりはクロに伝えていない事がある。クロは修市がさとりが覚妖怪である事を知らない。そして、さとりが修市の思考を読み取る事が出来ない事も知らない。  前者は単に伝えるタイミングが無かった為、そして後者は、無用な混乱を避ける為だった。記憶がない状態の修市に、私は覚妖怪です、貴方の思考を読み取る事が出来ますと言った所で意味もなければ態々不要な衝突を起こす必要もない。
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