博麗の巫女

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 そして、もし修市の思考が読み取れない事をクロが知ったら、今度はクロが修市を警戒し、怪しいと思った行動を取った時には、それこそ衝突が起こっていただろう。それだけは避けたかった。  その結果、修市やクロに隠し事をしていた事に罪悪感を感じたが、仕方がなかったと自分に言い聞かせ、仮に気付かれたとしても素直に謝罪をする必要があると、そう判断していた。  しかし、こうして博麗神社まで足を運ぶ準備も済み、修市を博麗神社まで案内すればその必要もないだろう。やはり人間である修市には外の世界の方が安全である事は間違いないし、外の世界に戻る手立てがなかった場合、その時は人里にて保護してもらえばいい。  そこなら、外来人である修市を受け入れてくれる筈だし、同じ境遇の外来人も多く存在するだろう。彼等、もしくは彼女等と平穏な世界で生活する事が出来れば、その内記憶も戻り、修市の生活も支障がなくなり、そのまま平穏な生活が送れる筈。  修市からすれば、何かお礼をしたいのだろうが、今の自分達にとって。先程の言葉で十分に満足できるものだった。ただ一つ、さとりにとって少し残念な事があった。それは、修市にお燐と妹であるこいしを会わせる事が出来なかったことくらいだろう。  しかし、それは問題ない。何故なら二人は、さとりと違って自由に地上と地底を行き来する事が出来る。それなら、修市が外の世界に戻る事が出来ず、人里で生活するようになったら、二人が会う機会が何処かである筈。  お燐は兎も角、こいしの場合、存在自体が気付かれるかどうか分からないが、それでも偶々巡り会う程度の確率で良いので、こいしには修市に会ってほしいと、さとりは内心そう思った。  そんな事を思いながら、そろそろクロに限界が来ているのを感じた。修市には見えない位置で、尻尾が僅かに震えている。目深帽子で表情を隔そうとしているが、口角が若干緩み、今にも笑顔になりそうになっている。  流石にこのまま此処にいてはクロに申し訳ないと思ったさとりは、先程の修市の言葉に気にしないで下さいと言い、その上で、自分がやりたくてやった事ですと告げると、今は地上に上がり、博麗神社に向かってから今後の事を考えようと提案した。
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