博麗の巫女

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 火焔猫 燐に対しても、もし出会う機会があったら『お燐』と呼んでいただろうし、さとりの妹であるこいしにあった時もきっと『古明地さん』ではなく『こいしさん』と呼んでいたかもしれない。  そう思いながらチラリと視線を向けると、さとりもまた先程の返事を待っているのか修市の事をじっと見ている。あまり長い時間、待たせる事はさとりに対して失礼だろう。仮に、先程のさとりの発言の受け取り方を勘違いしていたとしても、特に問題なく話を進める事が出来るかもしれない。そこまで思案した後に、修市は一つ咳払いし、先程の返答をする。 「そうですね、さとりさんの言う通り、霊夢さんはきっと不思議な方なんだと思います」  その答えに、さとりは普段とは違う、満足気な笑みを浮かべた事に、修市は内心ドキリとした。  修市の返事に、さとりは少々大人気ないなと思いながらも、その答えに満足していた。最初は、霊夢が修市に対して苗字ではなく名前で呼ぶ様にと言った事に対して、その対抗心からきたものである。僅かな期間ではあったものの、修市と共に過ごした中で、お互いに距離を取っていた事を自覚していた。  その上、自分の能力で修市の思考を読み取れなかった事もあり、その距離感を掴み切れなかった事もその原因の一つである。思考を読み取る以外にも、相手の仕草である程度の心理を予測できたとしても、やはり元々あった能力が使えないと言う事が此処まで大きなアドバンテージになるとはさとりにも予測がつかなかったのだ。  しかし、そんなさとりの苦労も、霊夢の生まれもっての性格からすれば、ほんの一瞬とも取れる時間で、修市との距離感を縮める事が出来たのだ。覚妖怪としては、そんな霊夢の性格を羨ましくも思い、自身の能力に頼り過ぎた自分の性質にも問題があったのだと、改めて実感したのだ。  だが、さとりは今回の件である程度理解した。理解したと言うよりも、修市との遣り取りの中で、彼との接し方とでもいうのだろう。修市という人物は、ある程度相手の事を察し、そしてそれを受け入れるだけの度量は備わっているのだと。 (とはいえ、私が覚妖怪と知った場合、話しは別なのでしょうけど)  例え修市に度量があろうと、さとりが覚妖怪と知った場合、話しは変わってくる。誰が好き好んで、相手の思考を読み取る妖怪の傍にいるだろうか?  答えはNOだ。
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