接触

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 ならば後者の、別の理由で幻想郷に流れ着き、修市が何かしらの目的があって地底に訪れ、事故に巻き込まれた線が高いとの事だが、何か分かる事はありますかというのが、さとりが修市の現状を見定めたうえでの推察と経緯である。  そしてそれを聞いた上で、修市は未だにさとりの話を全て理解する事が出来ない旨を話し、少し迷った上で、自身に置かれた現状を語った。自分は今、記憶の大半を失っているという事を。 「記憶喪失……ですか」 「はい。そして、古明地さんには失礼な話かもしれませんが、僕はまだ、貴女が話した内容を全て受け入れる事が出来ない状態です。先程話された、此処が地獄の上に建てられた屋敷だという事も、妖怪の話しもそうです。僕がいた世界にも妖怪や怪獣といった存在が昔存在した、若しくはそう定義された存在がいたという話を本で読んだ程度の話ですが」 「確かに、私が話した内容を直ぐに理解できるとは思っていません。日野さんにとっても突拍子もない話だと思いますから」  そう言って、チラリと視線が下におりる。矢張りその視線の先には赤い球体のアクセサリー。先程の妖怪の話をした件から、最初はアクセサリーと思っていたその球体も、もしかしたら唯のアクセサリーではないのかもしれないという、感覚というよりも直感に近いものが感じられるようになってきた。  とはいえ、直接本人に、もしかして貴女も、貴女が話していた妖怪の類なんですかと聞くわけにはいかない。仮に、彼女が話していた内容を全て信じるとするなら、自分は妖怪の糧になる為に連れてこられた人間という事になるのだろう。記憶を失っている為、その真偽は定かではないが、少なくとも唯の人間である自分に、何かが出来るとは到底思えない。  何らかの手違いでこの地底に落とされ、偶々運よく彼女の管理する地霊殿の庭に流れ着き、偶々運よく庭を散歩中だった彼女に拾われ、こうして介抱してもらっている。そう考えると、自分は運が良かったのかもしれない。  食物連鎖という形で自分の立ち位置を現すとしたら、恐らく人間は妖怪よりも下の位置、つまり、捕食される側の立場なのだろう。無論、人間とは、自分が住んでいた外の世界において絶対の存在ではないと理解している。人個人の力は大型の肉食獣には敵わないし、単純な身体能力も、他の動物達と比べると見劣りする部分は多々存在する。
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