博麗の巫女

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 しかし、興味なさげに見ていたクロだったが、その妖怪から発せられる気配に充てられたのだろう。瞬時に気持ちを切り替え、その妖怪の姿をじっと見つめる。見た目は旅人風の服装をした、ポニーテールの少女。発せられる気配から妖怪と判断したが、それでも何の妖怪かまでは判断する事が出来なかった。  何故なら、その妖怪は、見た目が旅人の少女であり、特に妖怪としての特徴的な外見を一切しておらず、何処にでもいるただの少女に見えたからだ。だが、その気配は獲物である人間を狩る際の妖怪そのもの。容易に話しかけようものなら、問答無用で襲い掛かる獣の如く、身の毛がよだつ雰囲気を醸し出していた。  その少女が、クロの姿を視認するや否や、にこやかな笑みを浮かべて挨拶を交わそうとしていたが、クロは軽く会釈するだけでそれ以上のことは出来なかった。そんなクロの対応に、その少女は苦笑を浮かべると、自身の頬を掻く仕草を見せながら同じように会釈し、そのまま地底へと降りてゆく。  その姿が小さな点となり、やがて地底の暗闇の中に消えるのを最後まで確認したクロは大きく息を吐き出しながらホッと一安心した。 (あぁ、良かった。あんな恐ろしい妖怪が、地上にもまだいたのか。さとり様が不在で本当に良かった)  そんな事を思いながら、一秒でも早くさとりが戻ってくるのを心から祈った。そして、旅人姿の少女が地底に降りてから少しした後、今度は別の人物が、先程と同じ様に、地底に降りようとしている。  全身を外套で纏った人物。外套を纏っているせいか、その人物が男性か女性か、果ては人間か妖怪かすらも、その外見から察する事は出来ない。そう時間もかからない内に、それも地底に降りようと試みる人物が立て続けに現れるなんて、本当に珍しい。  そう思いながら、僅かに鼻をひくつかせ、外套を纏った人物に目を向けるも、次の瞬間、その人物から嗅ぎ慣れたにおいを感じ取り、思わず目を見開いた。 (え、このにおい……なんで?)  外套を纏った人物は、先の旅人姿の少女とは異なり、クロに気付いてはいたものの、興味なさげに視線を逸らし、そのまま地底へと降りようとする。そんな外套を纏った人物に、クロは犬から人の姿に化けると、その後姿に声をかけた。 「おい、お前。なんで此処にいる?」  その人物は、クロの知る人物だったのだろう。先の旅人姿の少女に対しては警戒をしていたクロだが、目の前の人物に対しては警戒心を抱いていない。そんな無防備な姿をみせるクロの姿勢に、外套を纏った人物は振り返ると同時に、片手をクロに近付け、額に手を乗せた。
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