博麗の巫女

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 旅人姿の少女と外套を纏った人物が新たに地底を訪れたその頃、修市はさとりと霊夢の前で、自身の今後の事について決断を下した。異変と思われる外の世界からこの幻想郷に外来人が多く流れ着く謎の現象、その現象が解決するその時まで、地霊殿で世話になりたいという選択肢。  修市は地底に残る事を選んだのだ。それも、これまでの客人としての扱いではなく、身の回りの世話や雑務など、自分に出来る事をやらせてほしいと提案したのだ。  これはさとりに世話になったお礼も兼ねての事だったが、敢えてそれを口にする事は無かった。そんな修市の選択に、さとりはある種の難色を示した。  それは、地底が修市にとって、最も過酷な土地であるからだ。この事については、始めの頃に修市には伝えていた。地底は幾数多の妖怪達が蔓延る世界であり、人間である修市は妖怪達にとって餌でしかない。  中には友好的な妖怪もいるかもしれない。しかし、それは極一部の妖怪だけであり、地底の妖怪はその大半が、人間を餌としてでしか認識していないのだ。  例え、さとりの庇護下に在ろうとも、長い期間地底にいれば、いずれは妖怪達の耳に修市の事が露見するだろう。そして、さとりが不在の折に、妖怪達が修市を襲わないとも限らないのだ。  身体能力において、人間と妖怪とでは雲泥の差がある。更に、幻想郷の妖怪達の多くはそれぞれ自身のアイデンティティーを体現した能力が備わっている。修市にも、さとりの思考を読む程度の能力を妨げる力はあるが、それは本人の意思で発動しているわけではなく、無意識に発動しているものだ。  仮に、修市がその能力を実感し、自身の思いのままに使いこなす事が出来ようとも、妖怪達の力の前では役に立たないだろうというのがさとりの結論である。故に、修市には人里で保護された方が今後の為にもなると、そう告げた。  地底に戻れば貴方の身を保証する事は出来ない告げるさとりに、修市は笑みを浮かべ、構いませんと自身の意志を曲げる事は無かった。妖怪に襲われたらひとたまりもないと伝えても、私自身が、人間を糧に生きる妖怪なんですよと伝えても、修市は自身の意志を曲げなかった。  そんな修市の下した決断に、さとりは困ったように溜息を漏らすと、どうなっても知りませんよと言い、そして、霊夢には改めて地霊殿で預かりますとそう伝えた。話を聞いていた霊夢も、修市が下した決断ならそれでいいのではないかと残っていたお茶を啜りながら、何かあった場合は自己責任だからそれを忘れないようにと釘を打つ。
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