接触

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 唯一、人間が他の生き物と異なる部分があるとするなら、それは物事を学習する力と、身体能力だけを頼らず、知恵を振り絞り、様々な環境に適応する適応能力に長けていたという所だろう。そうでなければ、人間は今の様に世界中に広がる事もなければ、高度な文明も残す事は無かった。その為に、数多くの犠牲を伴ってきた事もあれば、同じ種族間での争いも未だ絶えないのが現状ではあるが。  そんな修市の思考を、さとりは第3の目で読み取ろうと試みたが、彼女の力は修市の思考を読み取れずにいた。 (やはりこの方の思考を読み取る事が出来ない。こんな事、今まで一度もなかったのに)  修市の意識が覚醒する前なら、思考が読み取れないのは理解できた。しかし、さとりが部屋をノックした時、部屋の中からは修市の気配を感じ取る事が出来た。案の定、部屋に入ると修市の意識は覚醒しており、言葉を交わす程度には問題はないと判断した。  後は、会話の中で修市がさとりに隠し事をしていないか、若しくは、地霊殿に流れ着いた理由が分かると思った。自身の第3の目が、修市の思考を読み取れないと知るまでは。  思わぬ事態に動揺はしたが、それを顔に出す事は無かった。仮に顔に出ていたとしても、彼にはその真意を理解することは出来ないだろう。彼はまだ、自分が妖怪である事を知らない。他者の思考を読み取る覚妖怪である事を知らない。  それならとさとりは気持ちを切り替え、第3の目を頼らずに修市の一挙一動を観察する事に徹した。思考を読み取らずとも、言動や表情の動きから、事の真偽程度なら理解できると判断したからだ。  結果として、修市の現状を粗方把握する事が出来た件はさとりにとっても幸いだった。記憶喪失。それも、一般的な知識を残した状態でそれ以外の部分、これまでの自分の記憶のみを失くした状態。せめて修市が此処に流れ着く前の記憶が残っていればと思ったが、話を聞く限り、その望みは薄いだろう。  例え、思考が読み取れたとしても、記憶がないのであれば読み取る事は出来ない。恐らく、思考が読み取れない原因は、記憶を失っている事による副産物か、或いは……。 (幻想郷に流れ着いた事で、何らかの能力に目覚めつつある? それも、私の様な妖怪の能力を阻害する、結界の様なものでしょうか?)
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