博麗の巫女

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 外の世界に戻す為の手段として博麗神社を頼ったが不発に終わった。正確には不発ではなかったが、外の世界に戻すには時間がかかるとの事だった。ならば、当初の予定とは少し異なるが、結局の所、修市の事を最後まで面倒みるというさとりの言葉は今もしっかり機能している事に他ならない。  そう告げるさとりに、修市は更に質問を投げ掛けようとするも、その言葉はさとりの手によって制しされた。 「それに、私はただ修市さんの意見を尊重しただけです。仮に修市が人里で保護される道を選んだとしても、困った事があったらいつでも相談に乗る気持ちでいましたから問題ありません」  その変わりと、博麗神社で修市が話していた内容を折り合いにだし、今度は悪戯っ子な笑みを浮かべながらその時の内容を口にする。 「その代り、今後は客人ではなく……そうですね、雑務係として地霊殿の雑務を手伝って貰いますので覚悟して下さいね」  さとりの言葉に、修市も思わず笑みを浮かべた。雑務を任された事が嬉しかったわけではない。さとりの元で再び生活する事が出来た事が嬉しかったわけではない。  一言で言い表すならば、それは、肯定された事だ。勿論、先の二つは、修市にとっても喜ばしい内容ではあったが、根本的な所で相違がある。  それは、記憶を失って尚、修市の胸の内に秘められた感情の一つなのかもしれない。ある種の行動原理の一つなのかもしれない。人とは誰かに肯定されてこそ、認められてこそ己に価値を見出すのかもしれない。  そして今、修市はさとりに肯定され、そして認めてもらう事が出来た。それが修市にとって、どれだけ救いだったのかさとりはまだ知らない。その笑みの本当の意味も、彼女からすれば、特に気にするでもない行動だったと、若しくは、深い意味がないものだと、そう思ったに違いない。  そしてその意味を、その真意を、修市もまだよく理解していない。己の感情の赴くままに、その笑みを浮かべた修市は、唯一言。 「分かりました。これから宜しくお願いします」  そう言って、地底へと通じる洞窟へと歩みを進めるさとりの後についていった。
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