博麗の巫女

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―地底 入口―  地底へと通じる洞窟に入り、暫くした後、クロと合流する予定の場所まで辿り着いたさとりと修市は、遠目に見覚えのある姿を捉える事が出来た。顔の上半分ほどを覆い隠す目深帽子、そして短パンのお尻部分から見えるフサフサの尻尾。  見間違える筈も無い。彼女はさとりのペットであり、送り犬の送那 クロエ本人である。クロの姿を捉え、徐々にその姿が大きく映し出されてゆく。地上に上がってからそう時間も経っていないが、クロの姿を確認できただけで何処かホッとするさとりだったが、クロに近付くにつれて、違和感を感じた。  クロの思考が上手く読み取れない。読み取れはするのだが、雑音交じりの砂嵐の中から声が聞こえるような、まるで思考を読み取る事が出来ない修市がクロの思考を読み取ろうとするさとりの能力を妨害している様な、そんな違和感に、さとりは眉を顰めた。 (クロの思考が読み取れない……いいえ、思考を読み取ることは出来るのですが、雑音が混じり過ぎて殆ど何を考えているのか……)  修市の能力が新たに覚醒し始めているのだろうか。いや、能力を使用する事に意識を高めると、遠くから別の思考を読み取る事が出来る、これは恐らく、旧都の妖怪達の思考だろう。  ある程度意識を集中させれば、遠くの生物の思考を読み取る程度の事は出来る。ならば何故、クロの思考を読み取る事が出来ないのだろうか?  修市の能力が妨害しているのだとしても、遠くの生物の思考が読み取れるというのは辻褄が合わない。仮に、修市の能力が自身の周囲を限定的に妨害するのだとしたら、それは修市自身が自分の能力を理解し、適切に使用しなければ、これだけの力を発揮する事は出来ないだろう。従って、修市の能力による妨害である可能性は限りなく低い。  考えられるとすれば、クロの身に何かあったか、それとも……と、不安がよぎったさとりだったが、それは杞憂に終わった。さとりが考えている間にクロに気付いた修市が、彼女に声をかけたのだ。  先程までの雑音交じりの思考は一瞬にしてクリアになり、クロの思考が明確に流れ込んでくる。何時もと変わる事の無いクロの思考。  先程までの雑音交じりの思考は一体なんだったのだろうと思いながらも、今は正常に機能している自分の能力に、内心首を傾げるも、修市の声に気付き、振り返ったクロの表情からは何の変化も見られない。  主人を待ち続けた忠犬の如く、尻尾をパタつかせながら満面の笑顔でさとりに近付こうとする。そして、本来いる筈のない修市の姿に気付くと、その表情は一変した。 「さとり様、お帰りなさ……お前、どうして此処にいるんだ? 博麗神社に行ったんじゃ……あれ、それとも人里……外の世界?」  会う事は無いだろうと思っていた人物が目の前にいる事に、困惑の色を浮かべながら首を傾げ、二人を交互に見つめるクロの思考を、さとりは改めて能力によって読み取る。やはり表情と思考に特別変わった様子は見られない。
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