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思考を読み取るとはいっても、何もない状態で火野衣の思考を明確に読み取ることは出来ないだろう。あの能力はあくまでも、対峙した人物の思考を読み取る事で、優位に立つ事が出来る代物。故に、旧都全域に存在する妖怪の思考など、その大半は聞き流されるだろうと判断できる。
多少思考を読み取られる事はあっても、彼女に不用意に近付かなければ問題ない。作戦に支障をきたす事は無いだろう。唯一、気遣うべき案件として、火野衣は眼下の旧都を眺めながら一人の鬼に意識を定める。
この旧都には数多の魑魅魍魎が跋扈している。その中でも一際強い気配を感じるその鬼に、火野衣は思わず挑発したくなる衝動に駆られ、苦笑を浮かべた。
「本当に唯の物見がてらであったら、是非とも一手お相手を願いたかった。刀を帯刀していたならば、思わず鯉口を鳴らしていたじゃろうなぁ。まぁ、拙の得物は刀に非ず、なんじゃがな」
そう言って、己の得物をそっと撫で、気持ちを抑える様に目を閉じる。暫くしてスッと閉じた瞳を開くと、呟く様に良しと一言漏らし、歩を進める。
気持ちを抑えるには別の事に意識を向けよう。先ずは腹ごしらえだ。目を瞑る前は、道行く鬼へと意識を向けていた火野衣だったが、次の瞬間には近場に店を構える茶屋に目を付けた。
―地上 九十九神の屋敷―
場所は変わって地上。火野衣と同じく外来人の調査を始めた時琶は、仲間達の集めた情報を元に今後の活動方針を定めていた。
集まった情報の数々に目を通しながら、時琶は考えを巡らせる。その中で、時琶は前もって得ていた情報とは今の人里の状況が大きく違う事に深く息を吐き捨てた。
外来人が多く流れ着いた事により、外の世界の技術が広がり、発展を遂げているとは聞いていたが、その発展の仕方が、日本の発展型ではなく、どちらかというと中国や中世ヨーロッパ時代に近いものを感じる。
外敵と定められた妖怪の侵入を防ぐ為に四方を壁で囲み、各方角に関所を設けて外の出入りを可能としている。出入りの際は関所の役員に手続きを済ませれば出入りは自由になるのだが、潜入捜査をする立場としては、此方の情報が漏洩する事は出来るだけ避けたい。その為、九十九神のメンバーには時琶が用意した簡易的な暗示の術式を持参させ、潜入する事に成功しているが、これも何時まで持つか分からない以上、何度も出入りする事は出来ない。
従って、時琶は九十九神のメンバー達による潜入捜査を一旦中断し、別の作戦に切り替えた。時琶の持つ切り札の一つ、自身の妖力を媒体に、人の姿を模した式神を召喚する事で人里内部の情報を精査する事にしたのだ。
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