三者三様

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 切り札の一つを晒す事にはなったが、仲間の情報を秘匿する事が出来るメリットを天秤に測れば仕方のない処置と気持ちを切り替える。だが、この異様としか言いようがない技術の発展は、流石の時琶も舌を巻いた。  文明が発展するのは良い。より良い生活を送る為に、人間達が様々な失敗を繰り返した上で得た成功に対し、時琶は勝算の言葉すら送るだろう。しかし、生活が豊かになる事で人里内での貧富の格差が拡大し、不穏な空気を漂わせている事に、時琶は一人、危機感を感じていた。  特に問題なのは、外から流れ込んでくる外来人の数が異常という事だ。本来、外の世界の住人である外来人は幻想郷のパワーバランスを整える為に用意された贄である。その贄となる外来人が多く人里に流れ着いた事によって技術が発展し、その発展が元で人里の治安が悪化しているのが、今の人里の現状である。  恐らく、外来人が此処まで流れ込んでくる事自体が想定外だったのだろう。里を囲む様に建築された壁が原因で、生活できる拠点に上限が出来てしまったのだ。今は使われなくなった民家や使われていない土地に新たな住居を増築してはいるが、それでも増築には時間がかかるうえ、流れ込んでくる外来人は日に日に増している。  その為、現在は緊急処置として仮住居を多く構え、そこに外来人を押し込んで対処しているが、それに対し、新たに流れ込んできた外来人の間に不満が募っている様だ。それにより、里の内部では日を追う毎に治安が悪化し始め、元々設立していた自警団達が至る所を駆け回り、その対応に追われている。  自警団が彼方此方に出回っている為、表立った行動が取れない事も問題だが、治安が悪くなる事で、この先、人里内で事を起こす事になる自分達にも悪影響を及ぼしかねない事の方が問題である目的を達成するために行動する中、下手に抵抗を受け支障を来す可能性もある。  それだけは避けなければならない。だが、自分達が出来る事にも限りがある。少なくとも、悪化の一途を辿る人里内の治安を改善する為にかける余裕は、今の時琶達にはない。 (この件で人里の主要人物、上白沢 慧音と稗田の当主と接触できる可能性も鑑みても利点があったとしても、そこまで手を回す余裕はない。例え姫様の頼みがあったとしても、目的達成の為に、心を鬼にしなくてはな)  そう結論付け、時琶は再び、集められた情報を精査する。人里に滞在する外来人の情報を。彼等が何時、幻想郷に流れ着き、どの様な生活を送っているのか。そして、彼等に、幻想郷特有の能力を得た者はいないかどうか。その有無も含め、多くの情報を精査し、その中から目的の人物を探し続ける。日野 修市。少なくとも、時琶が求む目的達成の為に必要なピースを手中に収める為に。
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