三者三様

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―地底 地霊殿―  地上と地底、この二つを拠点に九十九神のメンバーが行動を起こしてから数日、地霊殿の一室でさとりは、改めて人間と妖怪の価値観の違いに頭を悩ませていた。それは、地霊殿に戻ってから一日経った時の事である。  修市に雑務を任せようと思い、先ずは何から始めようかと思案する中、タイミングよく、地上から一人の妖怪が帰ってきた。彼女の名は火焔猫 燐。灼熱地獄跡で怨霊の管理をしている妖怪 火車であり、さとりのペットの一人でもある。  火車とは葬儀場や葬列、墓場に現れては死体を奪い去るといわれている妖怪であり、彼女もまたその例に漏れず、地上に上がっては人里の葬式や野晒の死体を見つけてはそれを持ち去っている様子。特にお空が起こした異変以降は積極的に地上に出ているらしく、地霊殿に戻った時も、野晒の死体……どうやら今回は修市と同じ様に、外の世界から流れ着いて来た外来人の死体を回収してきたようだ。  これはある意味タイミングが良いようで悪いと、さとりはそう思った。修市に任せようと思っていた雑務の一つとして、灼熱地獄跡の温度管理の手伝いはどうかと考えていた。しかし、よく考えたら人間である修市に、灼熱地獄跡で雑務を行うには体がもたず、そして温度調整に使っている薪に関しても、それを運ぶには修市には酷な話だと、直ぐに気付いた。  流石にアレは無い。死体となった人間を人間である修市に運ばせるのは最悪の展開だ。  お燐が地霊殿に戻ってきた時、さとりの傍に偶々修市がいた時の事だ。お燐が死体を運ぶ際に用いる通称『猫車』の中に、案の定死体が収められていた。彼女曰く、偶々森の中を探索していたら、件の外来人の死骸を発見したらしい。損傷も少なく、その格好から、直ぐに外来人だと分かったが、その後の会話が良くなかったと、さとりは思った。  お燐は言った。 「見て下さいさとり様。活きの良い死体を発見しました。見た目からすると、外来人みたいですが早めに発見する事が出来たので殆ど腐っていません。これは良い薪になりますよ」  満面の笑みでそう言う彼女の気持ちを無下にする事は出来ず、それは良かったですね。大事に扱って下さい。と、そう言ったは良いが、その会話を聞いていた修市の何とも言えない表情が、人間と妖怪の価値観の違いを際立たせるには十分だった。  その後、お燐に修市の事を紹介したのだが、お燐は笑顔で、何かあったらあたいが回収してあげるから安心してねと、安心できる要素の欠片もない発言にヒヤリとしたが、その解答として出た修市の言葉も印象的だった。
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