三者三様

5/31
前へ
/174ページ
次へ
『あ、あはは……そ、その時は宜しくお願いします』  無難な解答、あまりにも無難な解答だった。その場の雰囲気を壊すまいとした最低限の発言だった。  お燐が死体を灼熱地獄跡に運ぶために退出した後、お燐の猫車に収められた死体の事についてさとりは弁明した。お燐は妖怪に襲われ、殺された死体はつまらないものとして認識しているので、彼女が積極的に人間を襲ったりする事は基本的に無い為、妖怪の中では比較的に安全な妖怪であると。  その弁明に、修市は理解を示したのだが、それでも、目の前で同輩たる人間、更に言えば、同じ境遇の外来人が死体として運ばれていく姿に思う所があったのだろう。僅かに浮かべたその表情に、さとりは修市に灼熱地獄跡の管理を任せる事は出来ないなと、そう判断した。  それなら、他に何が出来るか?  真先に浮かんだのが、地霊殿で生活するペット達の世話であるが、これも修市には難しいのではとさとりは思う。地霊殿にはさとりの能力を頼りに集まった様々な動物達がいる。猫や犬など、人間に対して害のない動物ならば問題ないだろう。  しかし、地霊殿に集まった動物達は皆が皆、危険性のない動物というわけではない。中には人間を襲う獰猛な肉食動物達が数多くいる。事前にペット達に修市を襲わない様にと言っておけば問題ないのだが、それでも安全という訳ではない。  彼等に餌を与えようとして不意な衝動で逆に餌にされてしまう可能性もあるし、じゃれるつもりでの行動で大怪我どころか本当の意味でお燐の猫車の世話にもなりかねない事態になる事も十分に考えられる為、動物の世話も人間である修市には困難だろう。  此処は幻想郷であり地霊殿の動物達は外の世界で言う動物園にいる動物達ではない。そして修市も、動物の世話を専門職としているわけでもない。ペット達の世話も、彼には荷が重いだろう。  修市本人の意思を尊重した上で雑務を任せたいと思う反面、あまり危険な仕事内容を与える事は出来ない状況に、さとりはどうしたものかとふぅっと溜息を漏らした。 -地霊殿-  さとりが修市の一件で思案する中、修市はクロと共に行動していた。さとりに雑務を任せて下さいと言ったものの、地霊殿で出来る仕事が限られている事に気付いた修市が、どうしたものかと地霊殿内を歩いていた際、偶々クロが通りがかったのが二人が行動を共にするきっかけである。 「それで、修市はさとり様から何か雑務を任される様になったのか?」 「それが、雑務を任されたいとは言ったのですが、思いの他、出来る事が限られているんだなと、そう実感しました」  修市もさとりと同じ様に、自分が出来る事には限りがある事を実感しているらしく、それ故に、逆にさとりに迷惑をかけているのではと悩んでいる様子。そんな修市の様子に、クロは状況を察したらしく、ふぅんと相槌をうちながら話に耳を傾ける。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加