三者三様

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 少なくとも、地底は人間が住む環境ではない。従って、此処に住んでいる妖怪達は人間との接点は無いに等しい筈だ。無論、生まれてからずっと人間と関わりを持たなかったわけではないだろう。  昔、不可侵を条件に地上との接点を絶ったというのがこの地底の歴史と言われているが、それ以前の段階で、未だ地上にいた妖怪達が地底に流れ着いた場合、その妖怪を介して人間との関わりがあった事は間違いない。もしかしたらクロも、昔は地上にいたのかもしれない。 「そう言えば、クロさんは人間と妖怪との価値観について詳しい様に感じられましたけど、昔は地底にも僕と同じように人間が住んでいた事があったんですか?」  そう思い、さり気無く聞いてみるも、クロは首を左右に振り、地底に人間が住んでいなかった事を示す。 「いや、残念だが地底に人間がいた事はこれまで一度も記憶がない。だから、修市の件が本当にレアなんだ。それに、さとり様から聞いたかもしれないけど、昔、地底は不可侵を条件に地上とは一切の関係を絶っていたのは覚えているな」 「はい。さとりさんからそう聞きました」 「だったら話は早い。元からこの地底に住んでいた妖怪達は人間との価値観なんてこれっぽっちも理解できないだろうけど、僕達は違う。人間との接点は確かにあったんだ。それだけの事なんだ」 「それはつまり……」 「察しの通り、僕は昔、地上にいたんだ」  そこが幻想郷なのか、それとも外の世界だったのか、今となっては曖昧な所だが、確かに地上にいて、そして人間と接する事があった。だからこそ、人間と妖怪の価値観に関しては他の地底の妖怪達と比べて理解できるところが多くある、それだけの事だとクロは言う。  自分だけじゃない。地底の中で言えば、例えば鬼もその代表例と言えるだろう。そして何より、この地霊殿の主であるさとりもまた同様だ。  多くの妖怪達が地上から地底に追われ、そしてこの旧都を栄えさせた。そして、その最中に怨霊に対する対策としてこの地霊殿を建て、そこに覚妖怪であるさとりを地霊殿の主として席を設けさせたのだ。 「さとり様だって昔は地上にいたんだ。それがこの幻想郷なのか、それとも幻想郷が確立する前の外の世界かは分からないけどな。その記憶だって良い思い出もあれば逆に悪い思い出だってある。少なくともさとり様の場合は、後者なんだけどな。それに今の環境においてもそうなのかもしれないな」
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