三者三様

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 先程までの笑みが消え、クロの表情に陰りが見て取れる。これは聞いてはいけない事を聞いてしまったのではないかと後悔したが、そんな修市の雰囲気に気付いたのか、パッと表情を切り替える。 「まぁ、そんな事もあったって事なんだけどな。さとり様の本心は僕には分からない。だからこそ、僕はさとり様に、現状を幸せであってほしいってそう思ってるんだ。僕自身が、さとり様に仕える事が出来て幸せであるようにな」 ―地霊殿 ???―  そんな二人の遣り取りを遠目に見つめる一つの影があった。黄色のリボンを結んだ鴉羽帽子を癖っ毛のある薄みがかった灰色のセミロングの髪に緑の瞳。黄色い生地に白色の線が二本入った緑の襟、ひし形の水色のボタンに黒い袖と、緑のスカートを履いた少女。そして、地霊殿の主であるさとりと同じく、無数の管に繋がれた瞳の球体が少女の胸元に浮遊している。彼女こそ、古明地 さとりの妹、古明地 こいしである。  普段は地底のみならず、地上に上がっては自由気ままに渡り歩くという放浪癖があり地霊殿にいる事はほとんどなかったのだが、彼女が此処に戻ったのは、単なる気紛れの様なものだった。久し振りに姉の様子でも見てみようかなといった、なんとなくそう思ったから何となく行動に移した。  そして、特別に意図する事無く地底に戻り、地霊殿に戻ったこいしの目に映ったのが修市とさとりのペットであるクロの姿だった、ただそれだけの事だったのだ。しかし、こいしが二人の遣り取りを見て、浮かんだ感情は疑問だった。  何故、クロが人間と仲良さげに談笑しているのだろう?  クロの人間に対する感情は負の感情だったとこいしは記憶していた。だが、先程のクロと修市の遣り取りからは、修市に対して負の感情は一切存在なく、寧ろ好感のもてる相手と話している様にすら見えた程だ。  一体、自分がいない間に、クロに何があったのだろう。そう思いながら、こいしは改めて修市の事を観察する。何処にでもいる、普通の人間だ。少し前に訪れた人里で見かけた外の世界の住人である外来人となんら変わりの無い、普通の外来人である。  しかしそれはあくまでも外見的な意味合いであり、こいしの中では修市の評価は、地霊殿のメンバーや博麗神社の巫女、博麗 霊夢とは大きく異なっていた。  そんな人物が何故、地霊殿にいるのだろう。姉であるさとりは一体、何を考えて修市を地霊殿においているのだろう。  そんな疑問から、こいしはすぐさま、行動に移した。目的地は地霊殿のさとりの部屋。庭に居座っている修市からは死角になる場所を敢えて選びながら地霊殿内へと入り、そのままの足で、さとりの部屋まで駆けて行った。
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