三者三様

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―地霊殿 さとりの部屋―  場所はさとりの部屋へと移る。今後、修市に任せる仕事は何にすべきか思案中だったさとりの耳に、扉を叩く音が聞こえた。  トントンと静かに扉が叩かれる。その音に、さとりは意識を扉の外へと向けた。一体誰だろう、この時間帯はお燐やお空は仕事でいない筈、クロの思考も近くにないのにと、そう思いながら意識を集中させ、扉の外にいる人物の思考を読み取ろうとした。  しかし、幾ら意識を集中しても、扉の外にいる人物の思考を読み取る事が出来ない。思考を読み取る事が出来ないというのに、扉の外からはノック音が聞こえてくる。  あぁ、成程、これは修市が扉を叩いているのか。それならば、思考が読み取れないのも納得する。  少し前までクロと地霊殿の庭で話をしていたのをクロの思考を読み取る事で把握していたが、別れた後に此処まで来たのだろう。もしかしたら雑務の件で自分に出来る事が何か相談にでも来たのかもしれない。  そう思いながら思わずくすりと笑みを浮かべ、二人で今後の事を考えようかと扉へと向かう。 「しゅ……どちら様ですか? 今開けるので少しお待ち下さい」  と、思考を読み取れない事から修市と判断し、思わず彼の名を口にしようとしたさとりだったが、寸での所で言葉を切り返す事が出来た。危ない危ない、扉の向こうに誰がいるかなんて、そんな事、扉の外にいる人物の思考でも読み取らない限り、分かる筈もないのに。  とはいえ、お燐やお空は現在仕事の最中、クロだった場合、ノックをした後、そのまま扉を開けて中にはいる事から、扉の外にいる人物は修市であると断定できるのだが、態々相手に不審な思いをさせる必要はないし、一々説明するのも大変だ。そんな気持ちで扉を開けたさとりだったが、視線の先に映ったのは、修市ではなく、唯一無二の家族であるこいしであった。 「え、こいし……ですか?」 「うん、お姉ちゃん久し振り。元気にしてた?」  にこやかな笑みを浮かべながら姉との再会に喜ぶ妹に、さとりも先程とは違った笑みを浮かべ、部屋の中にこいしを招き入れようとした。  修市が地霊殿に流れ着いてから初めてこいしが帰ってきた。彼の事について話したい事が沢山あるのだ。そう思いながら招き入れようとしたさとりの胸に小さな衝撃が走った。  こいしの手がさとりの胸を押し、その衝撃でさとりの体が後ろへと下がり、こいしとの距離が若干離れる。その僅かな距離を詰める様にこいしはさとりの部屋の中に入ると、そのまま扉を閉め、内側から鍵をかけた。
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