三者三様

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―地底 ???―  笑う、嗤う、哂う……それは延々と笑い続けた。  あぁ、地底とは何と心地の良い所なのだと、愉快に愉悦に笑い続けた。それは外套で全身を覆い、自身の周囲に浮かぶそれを見て、哂い続けた。  此処は地底、かつて地獄と呼ばれた所。故に、周囲の至る所に生者を求める怨霊が跋扈し、外套を纏った人物に憑りつかんと、周囲を漂い、その時を待つ。  怨霊に憑りつかれれば、例え妖怪であろうと命はないだろう。しかし、外套を纏った人物は危機感を感じる事もなければ恐怖を感じる事も無かった。  何故なら、外套を纏った人物が地底に降り立った理由が目の前の怨霊だったからである。と、外套を纏った人物の背後より、一体の怨霊が好機と見たのか、一直線に背中へ降り立ち、外套を纏った人物を憑りつかんと襲い掛かる。  その一体を皮切りに、周囲の怨霊達も我先にと一斉に襲い掛かり、外套を纏った人物の体の中へと侵入した。一体、更に一体と、外套を纏った人物の体の中に無数の怨霊が入り込むと、先程までの笑い声がピタリと止まり、辺りが静まり返る。  外套を纏った人物の体の中に入り込んだ怨霊達に思考というものが存在していたなら、きっとこう思ったに違いない。おぉ、漸く肉体を手に入れたぞ。これでこの地獄と別れを告げる事が出来る。これで漸く、自由になれるのだと。  しかし、怨霊達の願いは叶う事は無かった。外套を纏った人物の体が大きく跳ね上がる。傍から見れば、怨霊に憑りつかれた事による反応と思うだろう。  だが、実際に跳ね上がった様に見えたのは、外套を纏った人物ではなく、それに憑りつこうとした怨霊達がのた打ち回る姿だった。仮に、彼等に声帯があり、自由に言葉を話す事が出来たなら、恐らく悲鳴を上げていただろう。  逆に、憑り殺されそうになった人物はというと、そんな怨霊達がのた打ち回る姿を見て、再び笑い声をあげた。どうした。貴様等が望んだ肉体だぞ。遠慮せずに入ってこい。  まるでそう言わんばかりに、肉体から逃げ出そうとする怨霊達を内側へ内側へと自ら押し込め、周囲に溢れ返っていた怨霊を全て体に取り込んでいく。自らを餌に怨霊を呼び寄せ、本能のままに肉体を取り込もうとする彼等を逆に喰らい続ける。  怨霊達も、まさか自分達が喰われる側の立場になるとは思わなかったのだろう。同族が喰われ続ける最中も、肉体を手に入れようと自ら死地へと飛び込み自滅してゆく彼等を、外套を纏った人物は嘲る様に笑いながら喰らい続けた。  やがて、呼び寄せた怨霊を一体残らず喰らい尽くした後、外套を纏った人物は周囲を見渡した後、最後に視線を旧都へと向けた。正確には旧都の中央に位置する建造物、地霊殿。  そこに視線を向けた後、外套を纏った人物は先程とは違った笑みを浮かべ、ゆっくりと口が開き、言葉が紡がれた。  その人物の名は日野 修市。くしくも、その人物の名は、先程外套を纏った人物が向けた地霊殿の主、古明地 さとりに保護された外来人と同一の名前であった。
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