三者三様

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―地霊殿―  見られている。修市はそう思いながら、視線を後ろへと向けた。  そこにいるのは古明地 さとりの妹、古明地 こいしであり、現在彼女は、不機嫌な表情でジッと修市を監視していた。一体何があったのだろう、というよりも、自分が彼女に対して何か悪い事をしたのだろうか?  そう思いながら少し前までの事を思い返してみる。あれは、クロと別れた後にさとりの部屋を訪れた時の事だ。一人で考えても埒が明かないと感じた修市は、直接さとりに、自分に出来る事は何かないかと相談しようと、彼女の部屋を訪れ、扉をノックした。  聞き耳を立てていたわけではないが、部屋の中からはさとりの他にもう一人、誰かが訪れているのか、話し声が聞こえる。扉をノックした事でさとりがそれに気付いたのか、部屋の中から中に入るよう促され、そのまま扉を開いた。  すると、視界には、部屋の椅子に腰かけるさとりともう一人、見知らぬ少女の姿。一瞬、来客かと思い、タイミングを間違えたかと思った修市だったが、少女の姿を良く見ると、何処かさとりと同じ雰囲気を漂わせている少女に、もしや彼女が妹のこいしではないかと思い、声をかけた事がそもそもの発端だったのではないかと、今更ながら修市はそう思った。 「こんにちは。もしかして、貴女がさとりさんが話していたこいしさんですか? 初めまして、僕は日野 修市と申します」  何気なく交わしたつもりの挨拶だったのだが、その後が問題だった。こいしに視線を向け、挨拶を交わした修市に対して、二人の表情が一瞬ではあったが驚きに満ちた表情だったと記憶している。何故あんなに驚いたのかは不明だったが、その後からこいしは不審者を見るような目つきで修市を背後から監視する様になったのだ。  現在、修市はさとりの指示で、地霊殿の管理に関する書類の整理を行っている。元々地霊殿は、灼熱地獄跡を彷徨う怨霊達を管理する為に建てられたものだという。  そして、その怨霊を管理しているのが、地霊殿の主であるさとりというわけだ。なんでも、怨霊は人間や妖怪に憑りつく性質を備えているらしく、不用意に近付き、怨霊に憑りつかれようものなら、そのまま憑り殺されてしまうという、とても恐ろしい存在だった。  それは人間に限らず妖怪も同様で、怨霊に憑りつかれればそのまま憑り殺されてしまうというのだから恐ろしい。そんな恐ろしい怨霊をさとりは管理しているのだ。  その見た目からは想像もつかないような特別な力を宿すさとりだが、この広い地底の怨霊を管理するのは手間がかかるのだろう。管理している怨霊達に関する書類を定期的に閻魔様に提供するさとりだが、一人で作業するとなると手間がかかる上に、自分以外に作業できる人材が足りない事もあり、こうして書類の整理から手伝いを始める事になったのだ。
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