接触

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 さとりの話を信用する事が出来ないと告げた修市に、これはあくまでも仮の話と前置きをして、幻想郷から外の世界に帰る方法を伝えた。この幻想郷という世界は、外から流れ着いた人間は基本的に戻る事は出来ない事を。その理由は先に話した様に、外来人は妖怪の糧として連れてこられた存在であり、仮に間違って連れてこられたとしても、その外来人が自分の力で元の世界に戻る事は不可能である事を。  外の世界を行き来する事が出来るのは妖怪の賢者 八雲 紫であり、特別な事情がない限り、彼女が外来人に手を貸す事は無い事を。しかし、例外中の例外で、この世界の地上にあたる場所に存在する神社、博麗神社と呼ばれる神社に住む巫女、博麗 霊夢ならば、外来人を外の世界に戻す手段をもっている事を。  説明の都度、修市の表情からはやはり信じられないといった表情が時折浮かんでいた。 (仕方が無い事ですね。私だって日野さん様に記憶がない状態でこのような話を聞いたとしたら、恐らく同じ表情を浮かべているでしょうから)  さて困った。話したものの、やはり荒唐無稽な内容だったのかもしれない。彼の思考が読み取れたなら、その思考を元に言葉を練る事が出来たのだが、思考が読み取れない人間との会話は初めての事だ。順序良く話したつもりが、全てを理解出来ない状態で話が進んでいるため、思ったよりも難航しそうだ。 「えっと、もし宜しければの話なんですが」  そんなさとりの心情を察したのか、修市は視線を地霊殿の外へと向けながら提案した。 「もし宜しければ、此処の外の景色を見せてもらってもいいでしょうか? 古明地さんが話していた地底の話しも、外に出れば分かるかもしれないので」 ―地霊殿 庭― 「これは……そんな、まさか……」  客室を出た修市が最初に漏らした言葉がこれだった。地霊殿の外は、さとりが話していたように見上げた先には星空どころか雲一つない地下特有の景色。加えて、地霊殿の廊下を歩いていた時は、床に設置された天窓から灼熱地獄跡から発せられた光が流れ込み、廊下全体を明るく照らしていた。天窓から光がもれる度に、熱風が修市の肌を熱する。かろうじて残っていた一般的な知識を総動員させても、この環境はかつての世界にはない様なものばかりだった。  そんな修市の表情一つ一つに、漸く彼が自分の言葉を信用し始めてきた兆候がみられた事に、さとりは安堵の気持ちと一緒にくすりと笑みを浮かべた。
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