三者三様

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 とはいえ、何も知らない状態で直ぐに仕事にとる掛かる事は難しく、さとりから細かな指示を受けながら作業に奔走されているわけだが、果たして、自分はこいしに何か悪い事をしたのだろうかと背中に感じる視線に息苦しさを感じる。 (そういえば、この感じ、何処かで……)  そんなこいしの視線を感じながら、修市は地霊殿に流れ着いた時の記憶を思い出す。 (あぁ、思い出した。確か、クロの時もこんな感じだったかな?)  初めてクロを紹介してもらった時、クロは明らかに自分の事を警戒していた。見るからに怪しい人物。さとりに危害を加えるのではないかと気が立っていたのだろう。今ではクロとはある程度腹を割って話せる仲にはなったとは思うが、始めの内は名前すら呼ばれず、人間と呼ばれていたなと、つい最近の記憶ながら、修市は思わず笑みを浮かべた。  と、思わず緩みかけた表情を正し、仕事に集中する。初めて自分に出来るかもしれない作業なのだ。此処は無事に成功をおさめ、さとりの期待に応えたいというのが修市の心情だった。  最初の内に、ある程度の基礎を学んだ為、今は簡易的な作業程度ならこなせるようにはなった。後は、デスクで資料を纏めるさとりの邪魔にならない様に作業を続ける事が出来れば、今度から本格的に作業の手伝いをするのも悪くないかもしれない。  そう思いながら、こいしの敵意を背中に感じながら、修市は手元に残った資料を処理していった。そんな修市の姿を、こいしは心底不機嫌そうな表情で見続けていた。 ーこいし視点ー  あの時、扉をノックした人物が誰か、姉であるさとりの様子から直ぐに察したこいしは、修市の無意識を操り姿をくらませようとした。こいしの能力、無意識を操る程度の能力は相手の無意識を操る事により他者に意識されずに行動する事が出来る。例え相手の目の前に立っていたとしても、その人物はこいしを認識する事は出来ない。  この能力は、かつて覚妖怪が人間の無意識の行動によって痛い目に遭い、相手の無意識の行動を畏れるようになった事からその能力を得たのだとしたら、彼女達にとってそれは皮肉以外の何者でもないだろう。  実際に、覚妖怪の持つ相手の心を読み取る能力を持っていたが、他人に嫌われる事を知ったこいしは、自分の意志で心を読み取る上で必要な第3の目を閉ざしており、相手の心を読み取る能力の代わりに無意識を操る程度の能力を手に入れたのだから質が悪い。しかし、無意識の能力を行使したこいしに対して、修市の取った行動はどうだろうか?  まるで何事もなかったかのようにこいしを視界に捉え、あまつさえ声をかけるではないか。元々、疑わしい存在と思っていた相手に、自分の能力が通じなかったこいしからすれば、修市は要監視人物として認識されたに違いない。
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