三者三様

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 事実、こいしの能力を知り、自身でさえこいしの存在を認識できなくなっていたさとりでさえ、こいしに声をかけた修市の行動は驚愕の一言に尽きただろう。修市にはさとりの能力を防ぐ術もあれば、こいしの能力すらも防ぐ術を有している。  もしかしたら、修市が自覚していないだけで、幻想郷における様々な人物の能力が、修市の能力の前では無に帰するのかもしれない。そしてそれを本人が認識し、自由に行使する事が出来るとしたら、彼の存在は幻想郷にとって禍の種にもなりかねないのではと、こいしは直感的に認識した。  やはり、姉さとりの前ではあるが、危険な存在は早めに処理した方が良いのではと思い、しかし、修市がさとりの部屋に入る前に、さとりが告げた言葉に思いとどまる。  あの時、修市が扉をノックした時、二人の雑談は一時中断されたのだ。そしてその時、さとりの雰囲気からして、相手が修市だと改めて理解する。すると、さとりはこいしに向き直り諭す様に話しかけた。 「いいですかこいし。貴女が修市さんを疑うのはよく分かっています。私を心配している事も十分に、これは先程話しましたね。疑われるのは仕方がありません、私にとっても、初めての事ですから……」  ですのでと、言葉を繋げ、最後に一言、こいしにこう告げた。 「ですので、こいしは修市さんの事を見ていて下さい。そうすればきっと、私が言った事も納得してくれるはずです」  そう言って、部屋に修市を招き入れたさとりに、こいしはその言葉通りに修市をじっと監視する事になった。 (私の能力といいお姉ちゃんの能力といい、あの人絶対おかしいよ。お姉ちゃんにとっても私にとっても……ううん、他の人や妖怪から見ても、絶対におかしいんだからね。なんでお姉ちゃんはあの人の方を持つのかな……)  姉の真意が分からない。覚妖怪にとって思考が読み取れない人物は天敵ではないか。それなのに何故、天敵を手元に置いておく必要がある?  仮に、天敵だからこそ手元に置いておくことで何かあった際はと、予防の為においておくならまだわかる。しかし、今の修市の姿を……いや、さとりと修市の遣り取りを見たこいしは、姉の真意を把握しかねていた。 (お姉ちゃん、なんであの人とあんなに楽しそうにしているの?)  仕事の手ほどきを受けている二人の姿が仲睦ましく、自分やペット達に向けていた親しい人物に向けるような表情で接するさとりに、こいしは胸の中でもやもやする感情が芽生え始めていた。まるで、大事なものを横取りされたような感覚に、こいしは益々不機嫌な表情を浮かべ、修市をじっと睨みつける。
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