三者三様

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 本来なら、その姿を他の人間や妖怪に見られる事もないのだが、修市には不機嫌な表情を浮かべているこいしの姿が視界に映っているらしく、その都度困った表情を浮かべるが、お互いにそれ以上のアプローチが続かず、時間だけが過ぎていく。そんな二人の遣り取りを、正確には、修市の様子から、こいしが傍にいる事を察したさとりは、コホンと一つ咳払いをすると、作業を中断し、二人に声をかけた。 「修市さん、それにこいし、そろそろ休憩の時間を取りたいと思うのですが、この際です、二人の交流も兼ねて、地霊殿の庭を散歩してきてみては如何でしょうか?」 「え、お姉ちゃん、何を言ってるの?」 「こいしさんと散歩……ですか?」  突然の申し出に、修市とこいしはさとりの言葉の意味を理解できず視線だけをさとりに向ける。 「はい、言葉通りの意味合いです。二人とも、会って間もない状態ですのでお互いの事を知る意味合いも兼ねて地霊殿内を散歩しながらでもいいのでお話をする機会を設けた方が良いのではと思いまして。もし、二人でが駄目でしたら、私も同伴したいと思いますがどうされますか?」  こいしは修市の事を危険人物と認識しているせいか、不用意に近付こうとはしないが、逆に離れすぎない様にもしている。そして修市は、そんなこいしの心情を知らないせいか、何故自分が睨まれているか分からず、どうしたらいいものかと四苦八苦しているようにも見える。  ならば、お互いの事を良く知れば、この微妙な距離感も少しはまともに機能するのでと言うのがさとりの判断なのだが、当然、こいしからすれば遠慮願いたいものであった。何が悲しくて、近寄りがたい人物と共に地霊殿を散歩しなければいけないのか、  しかし、自分がこの場で拒否すれば、今度は姉であるさとりが修市と共に出かけてしまうかもしれない。そうなると、姉の身が危ないのではと判断したこいしは、げんなりした表情を浮かべると、さとりの言葉に同意した。  対する修市も、特にさとりの提案を断る理由が無かったのだろう。さとりの提案に二つ返事で了承し、手元に残った資料を手早く済ませると、不機嫌な表情を浮かべたままのこいしと共に地霊殿の庭へと足を運んだ。  そんな修市を横目に、さとりはこいしに聞こえる様に『それでは、二人仲良くお願いしますね』とだけ呟くと、そのまま仕事を再開する。修市が部屋を出た後に扉が僅かに動き、ゆっくりと閉まる。扉が閉まる刹那、『善処する』と控えめな声で呟くこいしにさとりはくすりと笑みを浮かべた。
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