三者三様

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―地霊殿 中庭―  場所は変わって地霊殿の中庭。さとりのペット達が寛ぐその場所で、修市とこいしは一定の距離を保った状態で歩いていた。  会話もせず、視線を合わせる事もなく、淡々と庭を歩くこいしに対し、修市はどう接していいのか分からず唯々時間だけが流れていく。自分が一体何をしたのだろうかと思い、こいしと出会ってからの遣り取りを思い返すも、やはり原因となるものが浮かんでこない。  ただ、こいしに声をかけ、その後に不機嫌そうな表情を浮かべるこいしにずっと睨まれ続けているのが現状である。その時のさとりの表情も何処か驚いていたようにも見えたが、それが一体どういう意味で浮かべられたものなのか未だに理解できずにいる。 (もしかしたら、声をかけた事そのものがいけなかったのかな?)  理由は分からないが、それ以外にこいしに対しての接点はないなら、それ以外には考えられなかった。声をかけられただけで不機嫌になる、もしかしたら、声をかけた時の自分の態度か雰囲気か、それとも、さとりの部屋に入った時の行動が不遜な態度に映ったのかもしれない。  それならば、これまでのこいしの態度に納得がいく。さとりからはクロや他のペット達の様に気兼ねなく接してほしいとは言われていたが、初めて会ったこいしからしてみれば、地霊殿の主であり、自分の姉であるさとりに対して、失礼な態度を取っている様に映ったとしてもおかしくはない。  しかし、仮にそうだとしても、今度はさとりの驚いたような表情を説明する事が出来なくなる。何故、あの時のさとりは驚いたような表情を浮かべたのだろう。あの時、部屋に入る前に扉をノックし、部屋の主であるさとりに入室の許可を得ていた筈だ。部屋に入った時も、さとりの表情に変化はなかった。あるとすれば、こいしに声をかけた時だけである。 (あの時は、さとりさんとこいしさんの雰囲気が似ていたから姉妹かなって思って話しかけたけど、それだけで驚く理由になるのだろうか……)  見た目は髪色が違う程度で、雰囲気そのものは姉妹という事も相俟って、何処か似通った部分が多々あった。  何より二人に共通して、胸元の目のアクセサリーらしきものが二人が姉妹であると判断するには十分なものだった。その結果、修市はこいしの事をさとりの妹かと問い、彼女に睨まれる事になったのだが、それでは、あの時のさとりの表情は説明できない。  ならば、と、修市は視点を切り替えて別の可能性を考える。修市がいた世界になくて、この幻想郷に存在するもう一つの可能性。 「……能力」  呟く様に、その可能性を口にした。幻想郷に存在する一部の人間、妖怪、そして神々が所有する特別な力。妖怪や神々ならばそのアイデンティティーを、そして人間ならばその人物が持つ個性を象徴とする能力を有する事があるという。
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