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ならば自分は、こいしの持つ能力に関して、触れてはいけないものを触れてしまったのかもしれない。無意識の内に呟いたその言葉に、こいしは眉をピクリと動かし、その後の言葉に耳を傾ける。
「もしかしたら、僕はこいしさんの能力に関わる事で触れてはいけない事にしてしまったのかな?」
触れてはいけないものに触れてしまった。本来、認識する事すら出来ない存在である筈の彼女を見てしまった。憶測の域を出る事のない推測。しかし、その呟きは、こいしにとって信じがたい言葉に聞こえただろう。何故ならば、こいしが修市を警戒するに至った経緯。即ち、自身の能力を無意識の内に無力化していた事を見事に言い当てたのだから。
「……なんで、そう思ったの?」
振り絞るような声色で、こいしが問い掛ける。
「……すいません。こればかりは僕にもわかりません。僕がこいしさんと初めて会った時から今にかけて、自分が何をしたのか、未だによく分かっていないんです。それで、一つ一つ考えてみた結果、そう感じたとしか言いようがありません」
こいしの素振りからして、的を得た発言だったのだろう。しかし、当の修市にとって、自分が何をしたのか、未だに理解出来ないでいたのだ。
何故なら修市は、自分が知らず知らずの内に能力に目覚めている事に気付いていない。それも、さとりの思考を読み取る能力やこいしの無意識を操る程度の能力の様に、他人に影響を及ぼす能力を無意識の内に防ぎ、無力化している事にすら気付いていないのだ。
その状態で、此処までの推測に至った事は、ある意味奇跡に近かっただろう。そんな修市の返答に、こいしは自分の態度で修市に悟られたのだろ思い至り、改めて表情を険しくした。
何も知らないのに、僅かな情報だけで此処まで推測できるなんてありえない。それこそ、予め事情を知っていたとなれば、この推測に至るのはそう難しい事ではなかった筈。
そして、こいしの能力が何か知っていたとすれば、当然、姉であるさとりの能力もある程度把握していてもおかしくない筈である。人はおろか、妖怪にすら畏れられる能力、他者の思考を読み取る能力。その特異的な能力のせいで姉妹揃って迫害を受け、姉はそれを受け入れ、地霊殿の主として怨霊を管理する立場となり、妹である自分は、それを受け入れる事が出来ずに自分自身の手で自ら目を閉じ、覚妖怪であるアイデンティティーを放棄した。
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