三者三様

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 それまでの過程を把握していた上で、姉のさとりに近付いたのだとしたら、自身の能力に気付かないふりをして、思考を読み取る事が出来ないさとりに近付き、興味を抱かせたのだとしたら、それら全てを計算した上での行動だとしたら、修市という人物は、ある意味、覚妖怪と同様、否、それ以上に質の悪い存在である。 「ふぅん、何もわからない状態で私が貴方を警戒している理由が能力に関係があると思ったんだ」  肯定はしないが否定もしない。こいしの態度に、能力が関係している事は分かったが、結局こいしの能力を知らない以上、どうする事も出来ない。せめて、こいしの能力が何か分かれば話は別なのだが、恐らくこいしは自身の能力を教えるつもりはないだろう。  そもそも、こいしはおろかさとりの能力すら分からず、更に言えば、二人がどのような妖怪かすらも分からない。それらを知る事が出来ればその妖怪の持つアイデンティティーから能力に関してある程度しぼられてくるのだが、勿論それは、修市の知る妖怪の範囲の中だけである。 「僕がこいしさんに声をかけた辺りから様子がおかしかったので、もしかしたらと思っての発言です。もしも見当違いでしたら申し訳ありません」  苦笑を浮かべながら謝罪の言葉を述べる。その態度に、こいしは目をスッと細めると、改めて修市の様子を観察した。言葉としては、恐らく本心で謝罪の言葉を述べているのだろう。しかし、こいしは覚妖怪としての能力を失っている為、修市の本心を知る由は無い。  それ以前に、能力により自身の能力を無力化されている時点で、思考を読み取るという選択肢は端から存在しない事に、修市からこれ以上情報を得る事が出来ないだろうと思い、内心溜息を漏らす。 (最悪、この人の情報がもう少しあったら、人柄とか把握できるのに……)  そう思いながら、修市の服装に視線を向けると、地上で見かけた幻想郷の住人とは異なる点を発見した。それは、今の人里では当然の様に生活している存在であり、本来人里の住人が身に付けていない物。何度も人里を訪れては彼等の容姿を見続けていたせいか、それが定番となっていた為、気付くのが遅れたが、あぁ、成程。流石に姉の話を最後まで聞いておけばよかったとこいしは思った。  日野 修市は外来人だ。話半分で聞いていたが、地霊殿の庭で見つけて保護したとも言っていたような気もする。その時点で大分怪しい。  何故地底の、それも地霊殿に流れ着く外来人がいるだろうか。地霊殿は地底の旧都のほぼ中央に位置する。即ち、地霊殿まで訪れるには必然的に旧都を通る必要がある。  唯の人間に妖怪が跋扈する旧都を通り抜け、地霊殿に流れ着く事など不可能だ。少なくとも、一人で地霊殿を訪れたのなら旧都の誰かが目撃している筈。こいしが地霊殿に戻ってから間もないが、姉のさとりの様子からすると、地霊殿に訪れてから暫く経っている筈。
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