バスと

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バスと

 こんな時に山野先輩に連絡できればなんとかなるのにひかるは携帯電話を家に置いて出てきてしまった。  とにかく家にはいられなかった。今日は父親が帰ってきていて機嫌が悪かった。きっとギャンブルに負けでもしたのだろう。  父親の暴力に屈したと思うとひかるは自分の無力さに怒りさえ感じた。  遠くからバスの排気音と重たいタイヤの音が聞こえてくる。  純を人の多い場所に入れるのは少し不安だったが、バスに乗ってどこか逃げ込めるところに行かなければとひかるは思った。純は無言で俯いている。  バスが停留所で止まる。 「純、大丈夫。行こうか」  ひかるの服を掴む純の手に力が入る。  二人がなかなか乗車しなかったせいか運転手が扉を閉めようとする。それに割って入るようにひかるは自分の体を半身ねじ込んだ。純の手を掴むと思い切って中に乗車した。
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