月夜と

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月夜と

 梅雨明けとともに強烈な日光が降り注ぐ時期になった。  カーテンの隙間から差し込む日光がひかるを目覚めさせた。   パジャマの代わりに着ていたスポーツ用のシャツを脱ぐと熱いシャワーを浴びた。少し長めの前髪から水滴が滴るのを感じながらシャンプーで頭を洗う。  今日は平日だが学校には行かない日だ。それがひかるにとってどんなに心を安心にさせたか、それは学校に行かないから楽でいいとかそんな理由ではなかった。  シャンプーを終えると手早くタオルで髪の水滴を拭いた。  浴室の窓の外ではセミがけたたましく鳴いている。夏が来たことを実感する。  ひかるは浴室から出ると炊飯器をセットして昨日の夜に買っておいた食材で味噌汁と目玉焼きを作った。  きしむ廊下を歩いて弟の部屋に行く。ノックしてもいつも通り返事はない。扉を開いて中に入る。 「純、もうすぐ朝ごはんができるよ、それに今日は学校は行かなくてもいいよ」  ひかるは純に優しく語りかける。純は目を覚ましてひかるの瞳をじっと見つめる。 「大丈夫、あいつはまだ帰ってきてないよ」  あいつとは、ひかるの父親のことだった。毎晩酒を飲んでは潰れ、帰ってこない日も少なくない。  それに安心したのかはわからないが純はゆっくり布団から起き上がった。  二人で食べる朝食は気持ちが落ち着いた。  純はテレビの音に敏感だからテレビはつけないで二人で朝食の時間を過ごす。  たまにひかるが話しかけるが返事はない。それでもひかるは良かった。弟だけは絶対守る。その思いだけがひかるの中にはあった。  そしてそれは数年前に癌でこの世を去った母親との約束でもあった。  
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