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昼休みの生徒会室はクーラーを使っても少し汗ばむくらいの気温だった。
ゆうはあの日以来ひかるのことが心配だった。結局ひかるは軽く頭を下げてありがとうございますと掠れた声で言って去っていった。
「なんか最近妙にぼーっとしてませんか?」
智樹に話しかけられてハッと我に帰る。
「少し考え事をしていただけよ、叶くんのことで」
「え? 生徒会長はひかるのこと好きなんすか?」
智樹の問いにゆうは全くこいつは何を言いだすんだと辟易としながら、
「あんた本当によくその頭で生徒会に入れたわね」
と皮肉交じりに返した。
「彼、この前顔にあざがあったわ、あなた何か知らない?」
一瞬智樹の言葉が詰まったのをゆうは見逃さなかった。
「中学からの友達なんでしょ? 何か知らないの?」
智樹は少し考えてから、誰にも言わないでくださいよと前置きを置いてから
「あいつの父親が酒を飲むと暴力を振るうんですよ、だからあいつ弟のことを守ろうとしていつも身代わりになってるんです」
「それはいつからなの? 学校や相談所には話してないの?」
「それが……あいつ何故か一人で全部抱え込んで……助けたいのは山々なんですけど家庭の話に触れるとあいつ口きかなくなるから」
生徒会室に不穏な空気が流れる。
それに、とゆうは質問を続ける
「この前叶くんクラスの生徒とトラブルがあったみたいじゃない、いじめとかじゃないの?」
智樹は黙ってしまった。
「いじめなら先生方に報告しないと」
「いや、それも無駄だと思いますザッキー、山崎先生がいじめの実態を全く知らないから……」
それでも報告すべきだ、とゆうは思った。
「でも叶くんの弟も家庭内暴力の被害者なら見捨てるわけにはいかないわ、叶くんの弟はいくつなの?」
「小学生って聞きました」
智樹は少しうなだれていた。
「聞きましたってあなた付き合い長いんでしょ? 会ったことはないの?」
「いやあいつ誰にも弟のこと紹介してないみたいなんです」
家庭内暴力にほぼ不登校、それに加えていじめまであるとすると……
ゆうは
「今度直接本人に聞くわ」
と自分の決意を固めるためだけのようにそう言った。
え、それはちょっとと智樹が言った時に昼休み終わり五分前のチャイムが鳴った。
ゆうは生徒会室の扉を開くと足早に教室に向かっていった。
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