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手鏡が映しだした黒く伸びた髪の根元が金色に映えているのが見えた。
何度染めても当たり前に生えてくる金色を見て、自然に溜息が漏れる。
その度に、いくら取り繕ってもお前は日本人じゃないんだよ、と責められているような気がして胸がざわついた。
わざわざ私の前の席に座り、こちらを振り返って私の机に突っ伏して眠る、琴美の黒く長い髪を撫でた。
その黒髪は私の手の間からサラサラとすり抜けて、まるで私には手にする事ができないという事を暗示しているようだった。
手鏡で見る黒は、やはりどこか作り物めいていて、偽物はどれだけ近付こうと、どこまでいっても偽物なのだということに改めて気付かされる。
それでも琴美の髪を撫でるのをやめられなかった。
「おっはよー」
遅刻寸前で勢い良く教室に朝陽が飛び込んできた。
夜闇みたいな私を、名前の通りに明るく照らす。
この子の明るさは少し眩しい。
「玲奈、相変わらず早いねー」
私に遅刻は許されないんだよ、という僻みを飲み込んで、代わりに当たり障りのない皮肉を吐き出す。
「朝陽が遅すぎるんだよ」
えへへっと舌を出す仕草を天然でやってのける朝陽が羨ましい。
「朝陽、遅いよお」
私達のやりとりに気付いた琴美が起き上がる。本当に猫なのではないかと思わせるほどに似合う猫なで声を出し、朝陽の手を握った。
「ごめんねーよしよし」と大袈裟に朝陽が琴美の頭を撫でる。
琴美の髪がぐしゃぐしゃにはねる。
それでもなお美しいと思えた。
「にゃーん」と琴美がふざけた声を出す。
「猫になってるところすみません。もうすぐ授業始まりますので」私は二人を制した。
相変わらず冷たいなあ、と二人が声を揃えて笑う。
いつも通りの朝に、先程まではっきりと浮かび上がっていた憂鬱が少しだけぼやけた。
三人で居る時だけ日本人で居られるような気がする。
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