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「なるほどねえ。話はだいたいわかりました。それで? 玲奈ちゃんはどうしたいの?」
四十代とは思えない、幼さを身に纏うさっちゃんは、私達の担任だ。
良いのか悪いのか、私達にとっては先生というよりお姉ちゃんのような存在だった。
「私はべつに……」
「べつに……なわけないでしょ。さっちゃんもわかるよね? 女の子にとって髪は大事なことなの」
私を遮って琴美が横槍を入れる。
「わかります。だけどね琴美ちゃん。本人の気持ちを聞かずに周りが勝手に決めるのは良くないでしょう?」
「さっちゃんは全然わかってない。朝陽、このお方に言って差し上げなさい」
先程とは逆に、琴美が朝陽に促す。
さっちゃんはいつものやりとりを知っていて呆れ顔で、二人を待つ。
数秒の間をあけて朝陽が口を開く。
「金髪カッコいいじゃん」
私と、さっちゃんの溜息が同時にこぼれた。
「あのね、二人共。まず間をとって言うようなことではありませんし、何より玲奈ちゃんの気持ちが問題です。玲奈ちゃんがこのままがいいのか、それとも本来の地毛に戻したいのか。もちろん、地毛に戻すことに異論はありませんし、私もできる限り協力はするつもりです」
朝陽と琴美がこちらを見つめている。
私は自分の気持ちを吐き出した。
「私はこのままでいい。私は日本人になりたいの。だから金髪なんていらないし、この国で目立たずに暮らすには、黒髪の方がいいの」
「何言ってるの? 玲奈は日本人だよ。髪の色なんて関係ない、外見も関係ない。ここで生まれてここで育ったんだから」
朝陽が声を張り上げる。そうだよ、と琴美も同調した。
「純日本人の二人にはわからないよ。私がどれだけ疎外感を感じてるか。三人で居ても、私一人だけが浮いてる気がして。でもそんなこと言っても仕方ないから、笑って過ごしてる。琴美の綺麗な黒髪を見る度に、どんどん遠い存在に思えて……所詮私達は違うんだよ」
そう叫んだ後の静寂で、取り返しのつかないことをしてしまったことに気が付いた。
二人だけが、私の唯一の親友だったのに……。
二人だけは、私を異質な存在として扱わなかったのに……。
言い訳もできずに、その場から慌てて逃げ出した。
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