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学校に行くのが憂鬱になったのは、入学式以来だった。
それでも習慣は簡単には変えられず、いつも通りの時間に教室に着いた。
朝陽と琴美にどんな顔で会えばいいのか、そればかり考えていた。
いつものように琴美は私の机に突っ伏して寝てくれるだろうか。
遅刻ぎりぎりに、朝陽が元気一杯に教室に飛び込んで来るだろうか。
手鏡を見る。
黒髪はいつもに増して人工的で、もはや私の一部ではないように暗い影を落とす。
「おはよー」
揃った二つの声が聞こえて顔を上げた。
おはよう、の代わりに出た言葉は、どうして、という蚊の鳴くような呟きだった。
朝陽と琴美の二人が、美しい人工的な金を頭に纏わせていた。
「玲奈だけ染めててずるいから、私達も染めたんだー。どう似合う?」
朝陽の声はいつも通りに明るい。やはり朝陽の明るさは、私には少し眩しい。
「玲奈、早く地毛に戻さないと一人だけ黒髪で浮いちゃうよ」
琴美が意地悪そうに言う。
本人は意地悪に言ったつもりでも、その声音に厭味が含まれていないのが不思議だ。
「ぜんぜん、似合ってないよ」
私は二人の髪をぐしゃぐしゃにした。
「えーひどーい」
二人の声が揃う。
ありがとう。
辛うじて出た言葉は、二人に聞こえたかどうか、わからなかった。
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