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朝、起きて隣を見ると友菜がいなかった。そうだ、別れたんだった。
友菜とは大学一年の頃にサークルで出会って付き合いだした。しばらくして同棲も始めて、それから三年一緒にいた。
そしてつい三日前、友菜は出ていった。
きっかけは俺の浮気だ。
ほんの少しの出来心だった。俺の周りの友達だって浮気は当たり前のようにしてたし、最近友菜とマンネリ気味だったのは事実だった。付き合ってから三年間、俺は友菜一筋だったし、一度くらいいいだろう、バレないだろう、仮にバレても友菜ならきっと許してくれる。そう自分に言い訳をして、俺は友達の彼女の友達だという女性と寝た。
アパートに帰ると、友菜は荷造りをしていた。俺の友達から俺と浮気相手が一緒にいる動画付きのメッセージが来たらしい。
「金魚は置いていくから。じゃあね、さよなら」
そういって無表情の友菜は出て行った。
一人で使えるようになってしまったベッドの上でゆっくりと体を起こす。首をほとんど動かすことなく見渡せるワンルーム。友菜が気に入って使ってたクッションも、俺が割って怒らせたお詫びに買ったマグカップも、友菜の服が詰まってたボックスも、全部無くなっている。こうして見ると友菜との同棲生活なんて最初から無かったみたいだ。ただひとつ、金魚を除いては。
友菜を思い出させる金魚の世話なんてしたくなかった。けれど俺はなぜか朝と夜、一日二回の餌やりをきちんとしていた。
そうやって数日経つうちに、だんだん怒りが湧いてきた。たった一回の浮気で俺の弁明も聞かずに出て行った友菜と、友菜に俺の浮気を教えた友人にだ。どうして俺だけがこんな目にあわなきゃならないんだ。なんで出て行った。俺のことが好きじゃなかったのか。嫌いになったのか。どうして友菜にチクったんだ。友達じゃなかったのか。
そんな感情ばかりが生まれて、腹の底に溜まっていった。
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