君にあげた金魚が、まだ呼吸をしている

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「……っは!!…は、………は…」  俺は飛び起きた。心臓がいつもの倍以上の早さで動いてる。身体中から汗が吹き出していて気持ちが悪い。  カーテンからは薄く光が漏れていた。スマホを見る。まだ朝の5時だ。  息が切れている。深呼吸、深呼吸をしよう。まだ落ち着かない。そうだ水…とりあえず水を飲もう。  ベッドの縁に腰掛けるようにして立ち上がる。昨夜飲んだ酒の缶に足が当たってガラガラと音を立てた。相当飲んでいたはずなのによくベッドに入れたものだ。  よろけながら水道に辿り着いて水を飲んだ。コップをシンクに置いたところで、後ろからちゃぷんと水音が聞こえた。ハッとして思わず体が跳ねる。けれどそちらを向くのが恐ろしい。いいや、あれは夢だ。金魚が喋るわけない。そう言い聞かせて、俺はゆっくりと水槽を見た。  なんてことはない。金魚はこちらを見て口をぱくぱくと動かしているだけだった。  それを見た俺は急に穏やかな気持ちになって、ふと友菜に告白した時のことを思い出した。  付き合う前から、友菜は金魚を飼いたくて水槽とかは準備してあるのに肝心の金魚が決まらないと言っていた。そんな友菜がサークル仲間と行った夏祭りの金魚すくいでどうしても欲しい金魚を見付けた。けれど金魚すくいは苦手だという彼女に代わって俺がその金魚をすくった。一匹だけの金魚が入ったビニールの巾着を渡しながら、その金魚を見て目をキラキラとさせている友菜に俺から告白した。  あぁ、そうだった。  きっと俺はこれからも金魚の世話をし続ける。  だってあの金魚は、俺の――――――。  君にあげた金魚が、まだ呼吸をしている。
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