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清冽。
白を基調としたその部屋は整然と、そして静謐としていた。
鈍い金属光をまとう器具や、白い樹脂製の外装の機材、夥しい試料を収めたガラスケース等が立ち並ぶ。部屋の中央には、巨大なカイコガの繭を思わせる、白く、丸い物体が鎮座していた。
その周りに立つ二つの人影もまた、全身を白装束で覆い、防護ゴーグルで覆われた目元だけが、素肌とまなざしの色を透かしていた。
繭からケーブルで繋がれた装置の表面に、いくつもの数値が投影される。女性の声がそれを読み上げると、傍らに立つもう一人が男性の声で復唱し、A4サイズのクリップボードめいた端末に、それらを記入していく。
「――以上。第111世代、進化状況検査を終了する」
「第111世代、進化状況検査終了。了解」
硬質に復唱していた男は、いくらか生気を取り戻した、軟らかな声で続けた。
「形態、生態共に異常無し。数値の方も、いずれも許容範囲内に収まってます。この調子で行けば、第200世代前には予定水準に到達できそうです」
「とはいえ、一応上からのお達しだしね」
と、云いつつ、女の方は繭に繋がる機材のスイッチを操作する。
「やるんですか? 補正処置」
「やっといた方が良いと思うねー。今は許容範囲内だけど、200の頃には許容水準ギリギリまで行きそうな数値があるし。後から補正しようとすると、倍以上の時間とコストがかかるからねー。芽は早いうちに摘んどいた方が良いと思うよ」
「はぁ。さっすが、この道のプロですね」
「プロ、カッコ契約社員、カッコトジ」
女の声は、自嘲的に笑った。
操作していた機材に赤ランプが灯ると同時に、繭が低い唸りを上げ始める。その中では、昏睡状態の猿――小柄で尾のあるmonkeyではなく、大柄で尾の無いape――が、不可視のエネルギー線を浴びせられていた。
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