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「そろそろ終活をしたいから、家の荷物を整理したい」
そう親父に連絡してきたのは、85歳になるるり子さんだった。
るり子さんは、俺の死んだ祖父ちゃんの妹。
家は俺の祖父ちゃんの兄貴だった茂光さんが、生前住んでいたそうだが、茂光さんが亡くなった後、家族は家を継ぐことなく最終的にはるり子さんが継いだ。
俺は茂光さんとは会ったことがない。
なんせ、俺が生まれる前に亡くなったのだから。
親父の話では、茂光さんにいい思い出はないらしい。
そんな茂光さんは長いこと病で苦しみ、最期は誰にも看取られずに病院で亡くなったそうだ。
茂光さんの部屋にあった遺品は、当時服や生活用品だけを処分をして他は放置していた。
るり子さんが暮らすようになり、今ではるり子さん自身の物も増えて、終活で断捨離をするいい機会だからと、茂光さんの残りの遺品も整理することになったそうだ。
とはいえ、さして量はないということで、親父と母さんだけが手伝いに向かい、俺には声がかからなかった。
だが当日の昼頃になって、俺の携帯に親父から電話がかかってきた。
「広間に置いてある古い金庫が、どうしても開かない。お前に開けてもらいたい」
その金庫のことは、俺も見たことがありよく覚えていた。
観音開きの扉に金色の取っ手と家紋のような装飾があり、表面は光沢があって前に立つと自分が映る。
鍵穴が一つとダイヤルが一つ。
見た目は古いがとても立派な金庫で、中に一体何が入っているのか気になっていた。
るり子さんの家までは、電車で30分ほどの距離。
俺はすぐに準備をして、一通りの道具を持って向かった。
駅からタクシーでるり子の家に着くと、庭には大きなビニール袋が無造作に置かれ、母さんがビニール袋の口を縛っていた。
母さんは、俺の顔を見て「せっかくの休みなのにごめんね」と謝ったが、あの金庫の中身が気になっていたから逆にラッキーだったと伝えると、母は苦笑いをした。
玄関から家に入ると、廊下もゴミ袋でいっぱいだった。
どこからかビニール袋に詰め込む音や、引き出しの開閉音が騒がしく聞こえる。
昔はよく親戚たちがこの家に集まって、盆や年末年始を過ごしたらしい。
俺も子供の頃に何度か泊まりに来た。
その頃よりも、廊下は薄暗くて埃は積もり、天井や壁にはカビやヒビが所々伺えた。
歩くたびに、ギシギシと床が軋んだ。
台所ではるり子さんが整理整頓をしていて、声をかけるとゴミ袋を片手に振り返った。
「よく来てくれたね。ごめんね。せっかくのお休みなのに」
そう言って、るり子さんは頭を下げながら、不用品をどんどんビニール袋に詰め込んだ。
年齢を感じさせないほど、るり子さんは元気だ。
広間に向かうと、そこも床中に物が散乱していて、まとめたゴミ袋と段ボールがいくつか置いてあった。
埃が舞う中で、父親は古い和風文机の引き出しを開けて、何か書類を見ては破り捨てていた。
親父に声をかけた。
「悪いな、呼び出して。茂光さんの金庫を開けようとしたんだが、鍵もどこにあるかわからないし、ダイヤル番号もわからない。どうだろうか。開けられるだろうか?」
「一応、やってみるよ」
広間に置かれた茂光さんの金庫。
数年ぶりに見たが、埃が若干積もっているだけで、傷も汚れもなく装飾も美しい。
親父は、壊してこじ開けても構わないと言ったが、俺にはそんなことは出来なかった。
俺はバックの中から、仕事用の聴診器とピッキングツールを取り出し準備を始めた。
「開くのにどれぐらいかかる?」
「わからないけど、なるべく早く開けるよ。金庫の中身が気になるし」
「期待してるところ悪いが、金目の物なんてないと思うぞ」
「開ける前から夢のないことを言うなよ」
「まぁ、よろしく頼むよ」
そう言うと、親父は遺品整理の作業に戻っていった。
俺は聴診器を装着し、深呼吸をすると右手にダイヤルを握り、左手で聴診器をダイヤルの横にあてた。
ダイヤルを回すと、聴診器を伝い中で動く座の音が聞こえる。
その音が僅かに変化する一瞬。
それが正解だ。
四度その音の場所で止めれば、開くという訳だ。
だが、この金庫。
古いせいか、ダイヤルを回すとノイズが混じる。
ただでさえ、音の変化は僅かで難しいというのに、それがノイズで邪魔される。
まるで、茂光さんが開けるなと言っているようだ。
予想以上に、ダイヤル開錠に時間がかかってしまった。
親父が途中で何度も、壊してもいいと言ったが、意地で開けた。
ダイヤル式が開錠した後、今度は鍵部分の開錠だ。
師匠お手製のピッキングツールを鍵穴に差し込み、慎重に開錠を試みた。
特別暑い日でもないのに、俺の額からは汗が流れ出た。
そして、聞き慣れた鍵が開いた音がすると、一気にアドレナリンが湧きあがった。
「開いた!」
扉の取っ手を握りしめ、ゆっくりと手前に引っ張ると、扉は音を立てて開いた。
鍵師にとってこの瞬間が一番の喜びだ。
背後から親父の拍手と、母さんの歓喜の声が聞こえた。
気が付かなかったが、ピッキングをしている時から俺の後ろでずっと見ていたらしい。
「何が入ってるのかしらね」
母さんは目を輝かせていたが、父親はまるで無関心な様子。
金庫が開いたのを確認すると、親父は整理を再開した。
俺は父親の了承を得て、金庫の扉を開けた。
真ん中に仕切りがあり、上も下も奥の壁が見えるほどスカスカだった。
札束や金塊なんてものはなく、ただ何冊かにまとめられた今にも破れそうな書類だけが積み重なっていた。
母さんはそれを見てガッカリしたのか、また庭に戻っていってしまった。
書類は、茂光さんが所有していたいくつかの土地の権利書と借用書だった。
借用書には茂光さんの名前と貸した金額、相手の名前が手書きで書かれていた。
「こんなに土地持ってたんだ。すごいじゃん」
「そんな土地、もうとっくにないぞ。日付を見てみろ」
父親にそう言われ、俺は書類の日付を見た。
その書類はすべて昭和初期、大正とかなり昔のものだった。
借用書も同じで、よく見れば「済」と赤ペンで書かれていた。
それを証明するかのように、下の段には返済日や土地売却日が書かれたノートが見つかった。
棚にはそれ以外に何もなく、父親が言うように期待するものはなかった。
がっかりして頭を垂らした俺を、親父は笑った。
だが、ふと下段の板の四隅に溝のような切れ目を見つけた。
「この溝は何だ?」
ピッキングツールを溝に引っかけてみた。
そして、てこの原理で板を持ち上げると、溝に沿って板が外れた。
その空間は、元々あった下段のスペースを板で区切り、見えないように改造したスペースのようだった。
中には白い布に包まれた長方形の箱が入っていて、その下にはまた借用書と書かれた紙があった。
高鳴る気持ちを抑えながら結んだ白い布を解くと、そこには何も書かれていない桐箱が包まれていた。
息を飲み、震える手で桐箱の蓋を開けると、そこには黄金に輝く楕円形の大きな金の板が入っていた。
俺はそれをテレビで見たことがあった。
大判金だ。
江戸時代に作られた貨幣だが、小判とは違い主に贈答用だったため数がとても少ない。
現代で買うとしても、かなりの金額になる。
俺はふと、床に置いた借用書に目がいった。
そこには、茂光さんが後藤さんという人に二百万円を貸したという事が書かれていた。
その額は、どの借用書よりも金額が大きい。
だからなのか、そこには担保として「万延大判金」を預けると書かれていた。
その大判金がここにあるということは、お金は返ってこなかったということだ。
俺は親父と母さんを呼びつけた。
母さんもテレビで大判小判を見たことがあり、その黄金の輝きで目も輝いていた。
だが、親父は喜ぶどころか眉間にしわを寄せながら、「それに触るな」と広間を出て行ってしまった。
その間、俺と母さんは売ったらいくらぐらいになるだろうかと浮かれていた。
少しして、親父とるり子さんが広間にやって来た。
大判を見て、るり子さんは顔を引きつらせていた。
「まだあったのね。それ」
俺は大判が桐箱に入れられ、金庫の隠されたスペースに入っていたことを伝えて借用書をるり子さんに渡した。
「この大判、どうします。売っちゃいます?」
母さんは目を輝かせて言った。
だが、父親もるり子さんも表情は硬く、るり子さんに至っては、それには関わりたくないと言った。
欲しければ、俺たちにくれると。
喜んだのは、俺と母さんだけ。
親父も大判には関わりたくないと言い、金庫を開けた俺に処分を任せると言った。
「本当にいいの? 大判だよ」
「お前が処分していいよ」
親父とるり子さんの反応に違和感を覚え、その理由を尋ねた。
親父は、ただただ嫌な記憶だけが残っているらしく、るり子さんが大判についての話をしてくれた。
それはまだ、茂光さんが生きていた頃。
長男の茂光さんは頭が良くて、若い頃に始めた商売が成功して大金持ちになった。
生まれ育ったこの町の土地を買い占め、不動産でも稼いでいた。
会社の従業員や友達が、茂光さんによく金を借りに来ていた。
貸す金額も少なく、信頼もあったため問題はなかった。
借りた人たちは、茂光さんを恩人だと感謝していた。
茂光さんが50半ばを超えた頃、向かいのお宅の後藤さんが金を借りに来た。
後藤さんとは、休日に縁側で将棋をしたり、飲みに出かけたりする仲だった。
時々泊まりに来ていたるり子さんも、二人の仲睦まじい姿をよく見かけていた。
あの日、後藤さんが神妙な面持ちで、茂光さんの前で正座をした。
「茂光さん。無理を承知でお頼みしたいことがあります。二百万円、どうにかお貸しいただきたい」
「そんな大金、一体何に使う」
「妻が肺の病を患いまして、手術と入院費が必要なのです。どうか助けてください」
さすがの金額に茂光さんは断ろうとしたが、訳を聞いて迷っていた。
それを察した後藤さんは、胸元から大事そうに桐箱を出すと、蓋を開けると食卓の上に置いた。
それがまさしく、「万延大判金」だった。
黄金に輝くその大判を見て、茂光さんは息を飲み覗き込んだ。
「なんと神々しき金の板。これはなんだ」
茂光さんは初めて「大判金」というものを知った。
後藤さんが集めていた小判はすでに売り、すべて妻の治療費に使った。
大判は、かつて馴染みの骨董商から見せられ一目惚れしたもの。
ようやっと手に入れて、こればかりは絶対に手放したくはないと。
二百万円という大金を借りたとて、必ず大判を取り戻すために稼ぎ、返済しにくると約束した。
その熱意に負けて、茂光さんは借用書を書き二百万円を貸したのだった。
後藤さんも涙を流しながら喜び、感謝しながら帰っていった。
後藤さんが帰った後、茂光さんはずっと大判を見つめていた。
電球の灯りで、表面の金がキラキラときらめく。
自然と笑みがこぼれていた。
家族にも見せびらかせていた。
最初のうちは、預かり物ということもあって、大切に金庫にしまっていた大判。
毎日こっそりとそこから出しては、眺めて楽しんでいた。
妻のトミさんからは、大事な預かり物だからと注意されても聞かなかった。
時にはまるで自分の物のように、シルクの布で大判を磨いていた。
それから、後藤さんの奥さんの手術が成功し、三か月もすれば退院できることを風の噂で知った。
だが、茂光さんはあの大判にすでに魅入られてしまっていた。
奥さんが退院すると、後藤さんは借りた二百万円を返済するために死に物狂いで働いた。
時には青白い顔で、フラフラになりながらも。
茂光さんは、お金は大判と引き換えで構わないと言ったが、後藤さんは受け入れなかった。
必ず返済すると。
奥さんは完治したようで、玄関前を掃除する姿をよく見かけるようになった。
顔を合わせるたび、笑顔で頭を深々と頭を下げていた。
一年後、ついに後藤さんは二百万円を揃えて家にやってきた。
食卓の上に風呂敷を広げ、そこにしわしわのお札を置いた。
後藤さんは、茂光さんに感謝を伝えると深く頭を下げた。
そして、預けていた大判を返してほしいと言った。
その間、茂光さんは目を閉じたまま黙っていた。
「大判を返してほしい」
後藤さんの声に、茂光さんはチラリと目の前の札束を見たが、すぐに目を閉じると
「大判は返さない」と言った。
後藤さんは焦り、立ち上がった。
「どうしてです! 二百万はこのとおり用意しました。約束通り返してください。私は、あの大判を取り返す為に、死ぬ気で働いて来たのですから」
そう訴えても、茂光さんは大判を返そうとはしなかった。
お金はいらないから帰れと、それでも返せと言うならば利子を加えて返しに来いとまで言った。
あの時、書かれていなかった利子を、茂光さんは大判を返したくなくて借用書に書き足した。
絶望に打ちひしがれながら、後藤さんは持ってきた二百万を手に帰っていった。
茂光さんは後藤さんが帰った後も、金庫から大判を出してはその輝きにほくそ笑んでいた。
トミさんやるり子さんも、その姿が少し異常に思えた。
後藤さんは、それから何度も家に来た。
「返してほしい」と泣いて土下座までして。
そのたびに、茂光さんは理由をつけて追い返した。
それから一年ほど経ち、毎日のように来ていた後藤さんが姿を見せなくなった。
向かいの家の灯りは、ずっと消えたままになっていた。
近所の話では、後藤さんの奥さんが再び体を壊し、隣町にある大きな病院に入院したらしかった。
トミさんは罪悪感を覚え、茂光さんは逆に喜んでいた。
これで催促されることもないだろうと。
それは、蒸し暑く雨が続く日の夜だった。
居間で食事をとっていた茂光さんとトミさんと、泊りに来ていたるり子さん。
玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「こんな雨の日に誰かしら」
トミさんがそう呟いた。
「私が出てきますよ」
るり子さんが玄関に向かった。
雨粒が滴るガラス戸の向こうに人影が見えた。
「どなたですか?」
返事をしない人影。
「あの、どなたですか?」
気味悪く思ったるり子さんが戸は開けず、二度目は少し強い口調で尋ねた。
「後藤です」
今にも消え入りそうな声だったが、その声はまさしく後藤さんだった。
「今、開けますね」
そう言って、るり子さんは戸を開けた。
すると、そこにいたのは雨で全身びしょ濡れの後藤さんだった。
顔色は悪く、目は虚ろで隈が出来ていた。
「あらあら大変。今、何か拭くものを持ってきますから」
「待て!!」
後藤さんが、るり子さんに向かって包丁を突き出した。
それからは修羅場となった。
後藤さんは土足で居間に上がり込み、茂光さんに包丁を向けながら「大判を返せ」と脅した。
妻も病院で亡くなったと。
ただ、あの大判だけは若い頃からの夢で、汗水垂らして貯めた金でようやく手に入れたものだからと。
「あなたを刺してでも、返してもらいます!」
茂光さんは後藤さんをなだめてはいたが、大判を返すことはなかった。
そのうち騒ぎを気づいた人が通報したのか、警察官がやってきて後藤さんは連行された。
茂光さんは安堵し、トミさんとるり子さんは申し訳なさを感じた。
追い打ちをかけるように、後藤さんが留置所内で自殺した事を知った。
それを聞いても、茂光さんは気味の悪い笑みを浮かべて喜んでいた。
それから少し経ったある深夜、玄関の戸を叩く音が聞こえた。
茂光さんは音に気付いたが、時計を見て不審に思い無視をした。
それでも、何度も、何度も、戸を叩く音に耐えかねて、茂光さんは渋々玄関に向かった。
すりガラスの向こうに立つ人影は、見覚えのあるものだった。
「誰だ、こんな夜中に」
あえて強い口調でそう尋ねると、戸の向こうから「返してくれ」という声が何度も何度も聞こえた。
それはまさしく、後藤さんの声だった。
茂光さんは恐る恐る戸を開けたが、そこには誰もいなかった。
向かいの後藤さんの家も暗いままだった。
気味が悪くなった茂光さんは、早々に戸を閉めて寝床に戻った。
「どうかしましたか?」
声で目を覚ましていたトミさん問いに、茂光さんは気のせいだったと答えた。
だが、後藤さんは毎晩やってきた。
夜な夜な、玄関の戸を叩きながら「返してくれ」と訴え、戸を開けると同時に姿を消した。
茂光さんは睡眠不足とストレスで、幻覚を見始めた。
兄妹が大判を見たいと頼んでも、「盗む気だろ」と見せてはくれず、その目は疑心に満ちた恐ろしいものだった。
後藤さんの声や姿は、茂光さんにしか見えないようで、突然怒鳴り散らす茂光さんに家族は怯えて戸惑った。
一年ほど経った頃、長男が自ら立ち上げた会社が倒産し、借金を背負うことになった。
茂光さんが肩代わりをしたが、今度は長女が人に騙されて借金を負った。
それも茂光さんが肩代わりをした。
そんな中、今度はトミさんが肺の病を患った。
次々に訪れる不幸。
すでに貯金も底を尽きそうだった茂光さんは、トミさんの治療費の為に持っていた土地を売った。
何としてもトミさんを助けたかった茂光さんだったが、その願いも虚しくトミさんは亡くなってしまった。
それからも一族の不幸は続き、茂光さんの財産は家と大判だけになった。
そして、益々大判への執着が増していった。
遊びに来た俺の親父と妹さんが広間で話をしているだけで、茂光さんは泥棒だと叫び子供だった親父を殴り飛ばした。
そして、喧嘩が絶えなくなり、親戚達も実家には寄り付かなくなってしまった。
一人きりになった茂光さんは、ある日吐血をして倒れているところを虫の知らせでやってきたるり子さんによって発見された。
すぐに病院に担ぎ込まれ一命を取り留めたが、それからずっと原因不明の病に悩まされることになった。
幻覚を見て取り乱し、家の中で一人怒鳴り散らした。
そのたびに、最後には血を吐いて倒れ、病院に運ばれた。
次第に、茂光さんは廃人になった。
近所の人たちは口を揃えて、後藤さんの呪いだと噂した。
そして、茂光さんは病院でひっそりと亡くなった。
この話を聞いて、母さんも顔を引きつらせながら、俺にどうするかを託した。
確かに美しく、一生の財産にもしたいほどの大判。
だけど、手元に残しておくべきではないと感じた。
俺はどこかで手放すために、大判を預かった。
そして、茂光さんの遺品整理と荷物整理が終わると、俺たちは家に帰ることになった。
「これでいつお迎えが来ても安心だわ」
るり子さんはそう言って笑っていた。
あの金庫は、欲しがっているというるり子の友人に譲るそうだ。
しばらくして、俺は人伝に聞いた古銭屋に足を運び、預かった大判金を鑑定してもらった。
結果はただの偽物だった。
親父に電話を掛け、その旨と買い取ってもらった金額を伝えると親父は鼻で笑った。
「それで美味いものでも食ってこい」
そう言って、親父は電話を切った。
俺は一人でうなぎを食って帰ることにした。
不幸を呼び寄せた金は、こうしてうなぎと引き換えに失ったのだった。
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