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『お金と、時間。あなたはどちらが欲しいですか?』 「金だよ!」 普通病棟の面会時間も終わり。 夜間通用口から外へ出た俺は、思わず叫んだ。 ---あたりには誰もいない。 駐車場に停めてある車は俺のものと、角の狭いスペースに停められたバンの2台のみだった。 大きな川沿いに建てられた病院の駐車場には、真っ暗な中に流れる水音だけが響いている。 「………」 先ほどまで自分がいた病院の窓を見上げる。 たった一人の大切な娘が、長いこと入院している部屋。 土下座する勢いで無理やり定時退社しているのは、1分でも多くあの子の側にいるためなのだ。 病室のドアを開けると、いつも花が綻ぶように微笑んでくれる。 『お仕事忙しいのに、無理してお見舞い来なくていいよ』 そんな訳があるか。 お前のためなら嫌味な上司の靴の裏を舐めたって定時退社するぞ。 『身体大事にしてね。お酒飲み過ぎないでね』 「……愛梨」 かけがえのない一人娘の顔を思い浮かべる。 離婚してから、男手一つで必死に育ててきた愛娘。 あの子だけは俺が守らなければならない。 「…………」 運転席のドア近くの地面に、名刺大の白い紙が落ちていた。 拾ってみると、薄汚れたグレーの紙。 黒い文字で書かれた文は、薄暗い夜の駐車場では読むのにも苦労した。 『時は金なり。 時間をお金に変えたい方、随時募集中』 冒頭の言葉の下に、ケータイの電話番号がプリントされている。 ---スマホの電話機能をタッチして、無機質な数字の列を打ち込んだ。 『時を自由に売り・買える場所 時間屋』と書かれた店の番号へと。
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