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「愛梨! 愛梨?」 「お父さん離れてください!」 娘が乗せられたストレッチャーに追い縋ると、近くにいた看護師に引き離された。 酸素マスクをつけられたまま集中治療室に運ばれていく。 その姿を呆然と見送ることしかできない。 『娘さんの容体が急変しました! 至急病院へ来てください』 緊急連絡用に登録しておいた、担当医の電話番号からの通話。 駆け付けた自分の目の前で、治療室の扉が閉じられる。 間に合わなかったのか? 手術さえ受けられれば、あの子は助かるはずだったのに。 金さえあれば……。時間がなかったから……。 金。時間。金。時間。 ブツブツと繰り返している中、ふっと頭に浮かんだ言葉があった。 『---提案があるのですけれど』 ……『時間屋』。 わずかの間意識を失っていただけで、3万もの金を寄越してきたあの男。 あの胡散臭い男が、何か言いかけていなかったか。 時間か金を、融通しようとしてくれていた? 震えそうになる足を叱咤し、病院から走り出た。 とにかくあの店に。 川沿いの駐車場に止めてある車まで走って来ると、呼び止められた気がして振り向いた。 ……誰もいない。 怪訝に思った、その時だった。 ーーー俺は後ろから突き飛ばされて、ゆっくりと転げ落ちていった。 川沿いの駐車場には、下へ降りていく工事用の階段が設けられている。 俺はそこを転げ落ちながら、自分を見下ろしている男の姿を視界にとどめていた。 何度か身体を強打する。 悲鳴すら上げられない激痛が全身を襲う。 ーーー全てを、悟った。 「残りの寿命がない」とアイツは言った。 始めから俺を殺すつもりだったんだろう。 試しに時間を奪ったと言った、あの時に残りの寿命も抜き取ったに違いない。 身体の感覚がなくなったところで、階段が途切れる。 その先は深くて流れの速い、川の水面のみだった。 川岸の道上で佇んでいる男の、薄っすらと微笑んだ口元が網膜に焼きつく。 やけに派手な水音と共に、意識は途絶えた。
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