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「……やれやれ。鼻の鋭い猫さん達だったこと」
夕暮れの川沿いを、1人の男が歩いている。
男はトントンとスマホを弾きながら、計算ソフトで何かの数字を見ているようだった。
持っていた手帳にメモを書き付ける。
「大儲けだ」
娘を救うために金を得ようと、己の時間を売ろうとした男がいた。
「こんな後ろ暗い仕事、手数料無しではやれないんだよね」
本当は、寿命を買い取ってもよかった。
けれどもし、あの男が誰かに話したら?
話さなくても、莫大な金額の金を手に入れた経緯を探られたら?
胡散臭い都市伝説でも、ネットで瞬時に広がる現代。
遅かれ早かれ、あの店の存在が漏れてしまうのは時間の問題だった。
「殺しただけなら罪にはならなかったのにな」
ピンハネがばれた。
冥府に目をつけられてしまったようだ。
「お役所仕事のようで、意外ときちんと働いてるんだなぁ」
サングラス越しの瞳は見えない。
表情の伺えない顔に薄らと笑みを迎えながら。
男は、さて次はどこに店を構えようと思いを巡らす。
「これだから、この商売はやめられない」
言って、男はパタンと手帳を閉じた。
日はゆっくりと沈み。
その姿は、夕闇に解けるようにぼんやりと揺れて消えていった。
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