フデ五

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 傷は使用人が失敗した時に付いたものだった。  あの傷がなければ、私はただの「フデ五」になってしまう。  私の誇りそのものを消すというのか。なんと非道な人間なのか。  私と同色の筆が近づいてくる。  あぁ無念だ。すまない使用人よ。無力な私はお前との絆を失う。 『窃盗犯さん、今すぐ僕の宝から手を離してもらおうか』  希望を捨てた私は幻聴を聞いていた。使用人が私を助けに来るという、なんとも好都合だが現実的ではないものだ。実に情けない。  私は男の手から買い手に渡ったようだった。 『おかえり』  あぁ嫌だ。買い手が使用人に見えてきた。今度は幻覚というわけか。  おそらく私の意識は朦朧としているのだろう。 『悪かったね。我侭を押し通してしまって』 『いいえ滅相もない。橘総督のお役に立てて光栄です』 『ふふ。職権乱用してしまったかな。反省文ものだ』  反省文で済むのならマシではないのか。  私は静かにそう思い、意識を手放した。
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