僕とモアイと五百円

1/11
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 深夜二時。場所は寂れた商店街。  そこで僕は、地べたに這いつくばっていた。  この姿を他者が見たら、酔っ払いか事件現場のように見えるだろう。今が人気のない深夜だということを、僕は心から感謝している。  なぜ僕が深夜二時の商店街で地べたに頭を擦り付けているのかと言うと。その場所が自販機の前といえば、察しのいい人は状況が分かるはずだ。  そう。僕は自販機で飲み物を購入しようとして、運悪く小銭を落としてしまったのだ。  まだ凍えるほどの寒さではないけど、深夜はそれなりに寒い。冷たくなった指先を温めたくて、僕は淡く白い光を放っている自販機に近づいた。何も考えずに最初に触れた硬貨を引き抜くと、それはするっと手から落ちて自販機の下へと転がっていった。一瞬だけど、見えたのは五百円。  これが一円なら「あ」で終わった。十円は「あーあ」くらいは言うだろう。五十円でも、悔しいけれど、探すまではいかないか。百円なら、少し探すだろうか、どうだろうか。  そう考えると、人はどこまでの金額なら、勿体無いと思うだろうか。  まあその思いは人それぞれだと思う事にしよう。それはさておき僕の五百円玉は、埃だらけの自販機の下に、頬を擦って手を肘まで潜り込ませる程の価値がある。  暗闇をスマホのライトで照らしつつ、手探りで500円玉を探す。  掴んだのは、レシート。  タバコの吸い殻。  ペットボトルのキャップ。  ゴム製のキーホルダー。  ゴミが絡まってまとまったゴム。  なにかのゴムキャップ。  ネジ。  次から次へと出てくるゴミを、ウヘェと顔を最大限にしかめて放り投げる。  手の感触だけが頼りの中で、チャリンと金の音がした。指を伸ばすと、中指と薬指に冷たい物が当たった。 「あった!」  顔を自販機とは逆に向けて、手を伸ばせるだけ伸ばした。カチカチと音はすれども、爪が触れるばかりでそれは一向に動かない。悔し紛れに手を動かすと、硬い棒のような物に触れた。握ってみると程よい重さもあり、地面を掻き出すのにいい塩梅で動く。  これを使おう。俺は一気に勝負に出た。手首を使って棒を九十度に動かす。何度も動かしていると微かに当たる時もあり、五百円玉は少しずつ前に出てきた。  よし、あともう少しだ。  顔を自販機側にもどし、五百円玉を目で確認しようとして……僕はあり得ないものを見た。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!