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「それが“明上学園、校庭の金塊伝説”だ」光塚が言った。
「十年前っていうと……確か、翔川投手がいた頃ですよね?」綾原が訊いた。
“翔川投手”とは、現在プロ野球、東京ファルコンズでプレーする翔川遙道のことだ。高校時代、左の快速投手としてならした彼は、いつも部の中心にいた。三年次に同校を初の全国大会優勝に導き、ドラフト一位でプロ入り。ルーキーイヤーから四年連続で二桁勝利をマーク。以降も順調にキャリアを積み、いまや押しも押されもせぬファルコンズのエースだ。同じサウスポーである綾原が、目標とする選手でもある。十年前は、ちょうど翔川が三年生の年。「学園の校庭に金塊が埋まっている」という噂が囁かれ出したのは、夏の大会を直前に控えた六月の下旬、彼らの生活が最も過酷になる時分のことだった。
「最初に行動を起こしたのは、これまで一度もレギュラーになれず、今年もその見込みはないだろうと思われていた三人の三年生部員たちだ。彼らは疲れ切っていた。野球エリートとしてこの学校に来たと言っても、レギュラー組との力の差は大きかった。日々の練習に、目標も見いだせなかったんだろうなあ。
綾原、お前、いまそういう噂を聞いたとして、それを信じるか?」
「いや、それはちょっと……でも、その時とは状況が違いますからね」
「その通り。俺も同じ立場にいたら、馬鹿なって笑えるかどうか。断言はできないな」
「ハイになってたんですかね」
光塚は頷いた。「そして見つかるはずのない物を探し始めたんだ」
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