なかば、ゴールドラッシュ

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「これぐらいで、だいたいのところはわかったんじゃないか?」光塚が言った。 「要するに、みんなおかしくなっちゃったからってことですよね」綾原が答えた。 「一応確認するんだが、この続き、聞きたいか?」  思いがけない問いに、目を丸くする綾原。「それは、もちろん。ここまできたんですから」 「後悔しないか?」  なぜそんなことを言うのか、とフシギに思う綾原。目を見れば、光塚が決して冗談で言っているわけではないというのがわかる。彼はなにかしら綾原を気遣っているみたいだが、あんな言い方をされると却って気になるのが人情だ。 「大丈夫です。聞かせてください」  わかった、という風に光塚は頷き、重々しい口調で先を続けた。 「当然のことながら、朝井と大石、それから川口の部屋を探しても金塊は出てこなかった。そして彼らはその夜、宣言通り金塊を掘りに出かけた。三人が二人になり、今度は一転して十五人ほどに増えた。  考えてみろ綾原。三人で掘っていた頃は、まだ彼らのほうがマイノリティだった。それが一気に十五人にもなると、彼らの気持ちはどう変化すると思う?」 「仲間が増えて、頼もしく思うんじゃないですか?」 「近いものはある。人数が増えて、万が一バレたときの、一人あたりの責任が軽くなったわけだ。誰かがこんなことを言ってたな。『赤信号、みんなで渡れば怖くない』。それと同じだよ。みんな妙に気が大きくなって、その日、彼らは掘りに掘った。なにがなんでも見つけてやろうという勢いだったんだ。でも見つからない。疲労と落胆、それからイライラと、あらゆる感情がぐちゃぐちゃになって、仕舞いに彼らは仲間割れを始めた。 『誰だ、金塊が埋まってるなんて言ったのは!』 『だいたい金塊は換金しねえと使えねえんだぞ!』 『誰が換金しに行くんだよ! 閉じ込められた俺たちの誰がっ‼』 『お前骨折でもしろよ』 『川口に行かせろ』 『バカか! すぐ戻ってくるわあれぐらい』 『ああ、もうメチャクチャだよ~監督に殺されるぞ』 『もうやめだ。埋め戻せ。さっさと帰ろう』 『はあ⁉ ここまでやらせといてなんだ!』 『俺がやらせたんじゃねえだろ!』  とまあ、こんな具合でとうとう胸ぐらを掴み合って、いまにも殴り合いが始まるってときだ。誰かだ校庭にやってきた。それも一人じゃない。残った十一人の部員たち全員だ。寮をもぬけの殻にして、仲間の窮地に駆けつけたってわけだ」 「まだ掘るつもりなんですか?」半分呆れている綾原。 「そしてその先頭に立ったのが、あの翔川遙道だ」
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