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「こんな時間から、清水さん、ありがとうございます」
「いや、先生のほうも。授業は大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。今の時間は図工ですから。専科の先生に任せてまして、余程のことがなければ、十時半ぐらいまでなら大丈夫です」
「わかりました。それでは、うちの邦子について、何を話せばいいですか」
「どうして不登校になったか、学校側として、何か原因は考えられますか」
「邦子さんは成績優秀で、いじめなどの、人間関係に関するトラブルは見られなかったです。また、学級委員会の副委員長を務めていて、クラスのみんなからは、慕われていました。なので、こちらからは、ちょっと考えにくいですね」一呼吸置いて、続けた。
「清水さんは、何か心当たりがありますか?」
「はい、娘から聞いております。しかし、『先生には秘密にして』と娘から頼まれているので、貴女には話しません」
「…清水さん、それは困ります」
「何故ですか」
「邦子さんに対する、我々の対応を考えなければいけないですし、このことを、他の不登校の児童への接し方の参考にしたいからです」
「…以上ですか。なら、娘から、伝言を預かっているので、いいですか」
「いいですけど」
「それでは。二つ、伝言があります。一つ目は、『不登校の人はみんな、そうなった理由が違うので、私を研究材料にしないでください』です」
「わかりました」
「二つ目は、『私が不登校になった理由を、もう一度、考えてみてください。当たったら、登校することも考えます』です」
「承知しました。それでは、そのために、学級会を開きましょうか。そうですね、『清水さんは何故不登校になったか』。それとも、道徳の時間に考えましょうか、『どうして不登校になっちゃうの?』。もちろんそれに邦子さんの例も加えて」
「先生、娘の言ったこと、何も理解してませんよね?」
「してますよ。邦子さんが何故不登校になったか、私ではあまり理由を挙げられません。なので、学級会や道徳の時間を使わなければいけないのです」
「そしたら、研究材料になりますよね?」
「いや、この件は教育委員会には話しません。研究するのは教育学者だったり、教育委員会の偉い人でしょう。教員の私程度では、似たケースなんてそんなに出会いません。なので、研究しても無駄でしょう」
「…貴女とはやっぱり、話す気にはなりません。帰らせていただきます」
「…まだ話しましょうよ。こんなにも早く帰ったら、話した意味なんてないでしょう?ほら、大学の話とか…」
「…あたしは帰るよ、テンピー」
「…」テンピーは何も言わなかった。
天体観測から、不眠不休でやってきた一仕事は、割とあっさり終わった。
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